欅坂小説

□奥手の本音
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渡邊side


「理佐、もうちょっと強引にやんないと・・・。」

「分かってるって。」




分かってる。
分かってるんだ。もうちょっと強引に引き寄せてる感じを出さないと伝わらないことぐらい・・・・。

でも。



「あー!!恥ずかしい!!!!」

「あっ、こら理佐!!」


愛佳の腰に回していた手をぱっと離して逃げる。
恥ずかしいものは恥ずかしいんだ。うん、しょうがない。
言い訳が頭の中でぐるぐると回る。
思わず顔を手で覆ってその場にしゃがみ込む。



「・・・理佐?」
そっと名前を呼ばれて、そろそろと手を離すと、眉毛を下げて困ったような笑顔を浮かべた愛佳がいた。


一旦休憩しようという、スタッフさんの提案に素直に甘えることにする。


「皆ごめんね・・・。」
さすがに申し訳なさがこみ上げて来て、気分が一気に下がる。


「大丈夫だよ理佐、私たちだって結構ミスしちゃってるし。」

「ペーちゃんだって、手クロスするところで肩、ゴキィってなってたし。」

「痛かった・・・。」
皆が気を使ってくれているのが嬉しいやら申し訳ないやらで、その場に居づらくなった。




「ちょっと外出てくる・・・。」
スタジオの外に出て気分転換をしようとしたんだけど。




「・・・なんで愛佳がついてくるの?」

「え?なんとなく。」



なんとなくって・・・。
まぁ嬉しいんだけど。今はそばに来られると困るな。
そんな私の気持ちを知るはずもない愛佳は、あー良い天気だーなんて言って大きく伸びをしている。
目を閉じて深く深呼吸している愛佳の横顔を見るだけで、心臓が変な動き方を始める。



気付かれたい。

気付いてほしくない。
二つの相反する感情が渦巻いて、どうしたらいいのかわからなくなる。



「理佐。」
さっきよりも、もっと優しく名前を呼ばれて、また心拍数と体温が上がる。
なるべく平静装って返事をすると、急に声が出なくなる。


近い、顔。
両手に添えられた手の体温。
唇にあたっている柔らかさ。
愛佳に聞こえているんじゃないかって言うぐらい主張している心臓。


全部を理解した瞬間、堪らず肩を押して離れた。




「っ、まな・・・か?」
息もできないぐらいドキドキしていて、また思考も追いつかなくなって。
愛佳の名前を呼ぶので精一杯だった。


「抱き寄せるよりすごいことすれば、撮影も上手くいくかなって思って。・・・・嫌だった?」
上目づかいで聞いてくる愛佳の破壊力がすごすぎて、完全に脳がフリーズした。

「理佐?ごめんね?」
不安げな声音に、私の意識は引き戻された。


「っ、ちがう!!嬉しかっ・・・あっ!!」
しまった。
思わず言ってしまった。


私の発言を聞いた愛佳の顔には、みるみる笑顔が広がっていく。

「理佐ぁ〜!!」
急に抱きついて来て、猫みたいにスリスリされる。
あぁもう、可愛すぎてどうにかなっちゃいそう。



「理佐、好きだよ。」

「っ、私も。」
私が愛佳とのシーンを上手くできなかった理由も、きっとばれていたんだろうなぁ。
・・・いや、それ以上前から、私の気持ちに気付いていたんだと思う。

怪我の功名じゃないけど、こうして愛佳に自分の気持ちを伝えることができて良かった。


「よしっ!!じゃあ撮影頑張ろう!!」

「うん!」
眩しいほどの笑顔でそう言って、差し伸べてくれた手を握った。


END
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