krmt

□日常の中
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ガサりと紙袋を下げ相変わらず寒い道を歩く 首に巻いたもこもことした布に口元を押さえ付けはあと息を吐くと暖かくなる箇所にじんわり口元を当てる外に出た状態の自分の手では触れば逆効果だろう暖めるにはこれが一番最適である 冷たい風が向かいで吹くとびりびりと手が痛む 今日はやけに冷えるなと向かう足を早める すれ違う人達は誰もが楽しそうに道を歩いており良かったね、と両手を両親と繋いだ子供を見下ろす 一瞬で終わった自分の視界に写るその子は今の寒さを微塵も感じてないかのように笑っていた

ふと隣を見る 勿論誰も居ない
俺達が二人で歩くこと自体ほぼないし歩くにしたってすくなくとも先程の子供のように彼は笑わないだろう
子供を見下ろしたより低い位置に目を下ろす 良いだろう想像するだけ。
こんな寒い道でも防寒せず暖かくなる方法なんて宇宙人だって知りたいんじゃないのか なんて





「ーーさむ、」





耐えきれず口元に丸めた手を添え息を吐く 寒さで動きも固くなった掌はじんわり広がり痺れも薄くなるこれ以上寒くなる前に着いてしまおう
目的地にいるだろういつ行っても賑やかな彼等と篭りっぱなしで不健康な一人を思い浮かべ足取りを早めた












「いやー冬といえば炬燵 炬燵といえばみかんでありますな」

「軍曹さんとこんなに近くにいられるなんて炬燵最高ですぅ」

「炬燵で食べるミカンは格別ですよね てゆーか、冬定番?」



普段ガンプラを寝転んで作る真ん中のカーペットの上には見慣れない家具が設置されている 赤色を彩る厚い布団に真ん中にあるのは盆に入った沢山のみかん 緑の手がおもむろに手を伸ばし一つを剥き出す そもそもこの部屋は暖房が付いておりそこそこ暖かいんだが突っ込む者は居ない こてんと顎を机上へ力なく凭れさせるとむにゅと頬が上がる 足を伸ばし寛ぐ緑と黒 そして緑の右側には正座をし炬燵に入っている女性が一人





「大体こんな寒いのにギロロとクルルは何やってんのよもー 折角今日の会議はここでやろうって呼んだのに」

「伍長さんさっき見掛けたんですけど何やら忙しそうでしたよ?」

「クルルの奴 冬といえば炬燵というワードに対してまた何か仕掛けてきそうだよね…我輩達で実験するのはマジで勘弁して欲しいでありますがーーケロ?」


ガチャりと向かいの扉が開く
よく良く考えればクルルが炬燵に入りに来ることは考えに薄くなっていた 夏海は友達の所へ 冬樹は桃華のところへ行っている為可能性としては消去法で用事の終わらせたギロロの線が強い



「ちょっとギロロー、遅いであります 隊長命令に背くなど軍人の…ってあれ サブロー殿?」

「や、ケロロ お邪魔するよ」

「珍しいですね どうかしたんですか?」

「これを返しに来たんだけどさ、クルルはラボ?」






ガサりとケロロ達の前に紙袋が掲げられた 白いその袋は中に何が入っているかなんて見えるわけもなく、だが気になるワードを拾った
クルルに返しに。つまりはあの中に入っているものはクルルの私物か発明品 この時単に興味が湧いたケロロは目を光らせる 発明品ならば手持ち無沙汰の今弄らない手段の他ない そして私物ならばどんな物か拝んでやろう 無意識に黒い剣幕を張ったケロロを見やりまた何か企んでいるなと小さく息を吐くタママ





「サブロー殿!差し支え無ければその中身何が入っているのかみたいであります」

「これ?別に面白いものじゃないよ」

「隊長として!部下の私物はちゃんとチェックするのが義務であります」

「軍曹さん…そんな身勝手な」

「てゆーか、プライバシー侵害?」

「それじゃあ ーーはい」

「ゲロ〜 ありがとうでありますサブロー殿」




どんな物が入っているのか サブローに貸したというのであればやはり私物の方が可能性が高いだろうだがあのクルルが他人に物を貸すなんてことよっぽどの利息がないと有り得ないだろう ペコポン人であるサブローが使うもの、
隊長であるケロロもクルルのプライバシーには中々入れるわけもなくわからないことが多いその上サブローなど隙さえ見せないミステリーな存在 この貸し借り物品を見ることで二人の好みを同時に知ることが出来る まさに一石二鳥
にやにやと紙袋をあけ覗き込むのとサブローが部屋を出るのは同時












カタカタとキーの進む音 比例するのは反応しその通りに手順を進めるコンピュータの高音 視界いっぱいに広がるスクリーンには日向家の様子が映し出されており外出中の三人の様子もしっかりモニターに映し出されている
誰を拒む訳でもない扉は近付くと自動で開き其処には気楽そうに頭の後ろで両手を気だるげに回しギイという音のなる椅子にもたれかかった黄色い身体




俺が来たことがまるでずっと前から分かっていたように扉が閉まった後にそれは振り向いた 特徴的な丸メガネに色の悪い顔 別に悪口を言ってるわけじゃなくて彼は普段そうなのだ 彼は立場上徹夜の仕事が多い 疲れている時はいつも丸い背がまた丸くなり眼鏡の下に隠しきれない疲れた表情がわかる 人付き合いもあまり良くなく隊員相手としても悪態を付いたり意地の悪い触れ合い方や話し方 相手の不幸を蜜の味と言わんとばかりの性格をしてる、その天才頭脳を馬鹿みたいに働かせそっち方面に役立てているが悪いヤツでないこともわかってる
徹夜をするのは自分の興味最もだが隊長からの依頼や隊員の装備修理 メンテナンス。転送防具なども全て彼の頭脳と技術がなければ穴ができる いつ戦ってもいいように、何時でも武器が送れるように。いつメカを発進させてもいいように。彼は毎日のメンテを決して欠かさない それは自分の為ではない
誰にも話したりしない それでも俺はちゃんと見て理解してるつもりだ。そう勝手に






「調子はどう?クルル」

「三日目の晩温めたカレーみてえなもんだな」

「あー残念 家なら多分残ってないや」

「あめえな 俺なんてその日だ」




どうやら相変わらずらしい さっきお邪魔させてもらった部屋までではないがそこそこ此処は暖かい 然し前に表示されるのは面白いテレビ特番でもなくげーむでもなく監視映像 そして誰かがいる訳でもなく唯一映るのは先程の部屋の中驚いた様に腰を抜かしているケロロ




「お前もおもしれえ事するんだな クック」

「正当防衛だよ 君のためにしてあげたのにさ」






がさりとケロロに渡したのと全く同じ紙袋を差し出す こっちが本物だ あの中に入っているものは小さな花火 ネズミ花火みたいなものだ 開けると引火し複数が火を放ちながら飛び出すという仕掛け 案の定そんなものが入ってるなんて思いもしなかった本人は驚きなんとも言えない顔をしていた 悪いことをしたなと眉を下げるとぴょこんという音をたて椅子から彼が下りる



「まあ気にすんな隊長からは俺が適当にいっとくぜぇ」

「あはは助かるよ それはそうとほら」




ずしりと重いそれはクルルのパソコンだ 普段持ち歩いている常備のではなく予備のまた予備といった所の物
これを借りたのはどうしても調べていることがあり追及するために借りたのだ彼のパソコンならば宇宙を通じ母性の最先端ネットワークに繋がっているため日本では解明されていない事までもが分かるからだ いやそもそもこの調べ物はケロン星の力を借りねば追及は不可能であった 受け取りやすいよう低く袋を手渡す 猫背で手を口寄りに添えた彼の顔がこちらをみあげる






「何を調べ物してたんだい」

「気になるの?」

「お前が俺に頼るなんざどういうこっちゃとな クックック」

「この世の平和を守るため、最先端とやらを知りたくなったんだ」

「生憎だがペコポン人に理解できちゃ俺らの肩が狭いってもんさ」

「それにしては貸してくれた上翻訳機もついてたけど?」

「ハッキリさせてやったんだろ 格の違いをな。感謝しろよぉ」

「ああ いい体験だったよ」




ひらひらと手を挙げそのまま踵を返そうとした俺の動きは彼の一言で止まる ピタリと止まった根拠は二つ
まず一つ目は見返り 幾ら私物といえど彼の侵略者と呼ばれる立場上国の情報が危うくなるだろう物を貸したのだ
何を求められても俺に返せる言葉に否定などないだろう所詮俺は只の人間 この小さな彼が手を捻れば
息の根なんて草を抜く程簡単に止められる
そしてもう一つは





「待ちな」








俺は








彼の呼び掛けに断るつもりなどないからだ
返しに来る事自体が家を出る時から嬉しかった
お前と話せるんなら










「なに?」

「俺様の大事なもんを貸しといてありがとう一言で終わらすとでも思うのか?」









けど前言撤回、俺は鼻から不安なんてない
今もこうして余裕構え見下ろすのに根拠が存在するからだ
彼は草を抜いたりしない

彼は 華を咲かせてくれた らしくもなく。






「商店街に美味しいカレー屋見つけたんだ」

「そいつも捨てがたいが、今はこっちだ」




ぴょこぴょこという足音についていくと彼の小さな身体には似合い俺には余りにも小さい布団が一つ敷かれていた きょとんとする俺に気遣う事なく布団に潜る彼を見つめているとくいくいと手が招く 一緒に寝ろということか





「俺寒くない?」

「寝るのは俺だけだ お前にはいらねえだろ クク」

「添い寝してほしいなんて驚いたこんな事でいいの?」

「何なら研究途中の無人戦闘機にお前さんの脳みそインプットしてもいいんだぜえ?」

「そりゃあ困るなあ いつ解放されるかわかったものじゃない」

「俺だって男を監禁する趣味はねえんでな こちとら徹夜続きなんだ、添い寝なら添い寝らしくちっと黙れ」

「はいはい」





左手を後ろに折り枕にすると向かいの彼を見る 今回は隊長の為だろうか はたまた隊員の為だろうか少なくとも彼にとって有意義な徹夜仕事だったろう 俺は心中まで深く知らない けどそれでいい
お互い全てを知ってしまったら追求心の高いこの二人はきっと終わる
つまらないと感じてしまうときっと 永遠にそのままだ
俺は彼に興味がある、けどそれも知られなくていい
彼が知ったら 軽蔑して嫌われる
似た者同士のマブダチ。それでいい
俺のつまらない世界を変えた彼が
俺に新しい人生をくれた彼こそが 俺の人生
宇宙人だろうが侵略者だろうが関係ないから




ああ、ーーーねむい





けど 少し我儘言うんなら

君の楽しい事 悲しい事 その変化を

俺が見届けて挙げられたら







































すうすうと規則のついた呼吸を続ける目の前の人間は閉じた目を開きそうにはない
疲れてんのはどっちだ
一昨日から俺様の貸してやったパソコンにらめっ放しで碌に寝ず飯も適当
何をそんなに調べてやがったのやら、履歴を見れば一発だ
内容によっては今後暫くは揶揄うネタが、




そこまで考えた時じっと目の前の顔を見る
先程の声を思い出す 控え目ながらに自分を慕う心 それが何時からか友達としての枠を超えてきていることを聞かなくてもわかっていた
すっと頭を上げ枕の下に隠した装置を取り出す 一定範囲の相手の真相心理が分かるという造りになっている 然しその条件があり同じ目線に居ること、普段の状態だと可能性は低い そしてこの方法を思い出した もう一つの条件は相手が心の言葉を読み上げること。勿論心でだ その条件を満たせるのはこの方法を思い付きこの男が何やら本音を漏らすことに掛けた するとこれだ。見事に本音をぶちまけ全て電波として拾い上げた俺にお見通しという訳







「ま、予想はしていたがなぁ クックック」








一人分しかないその布団をバサりと掛けてやる 寝たのなら話は別だ
簡単に言ってやるかよ。









さらさらの白銀の髪を撫でて すっと立ち上がった




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