short

□わからない
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 人は少なからず好意を抱いた相手のことを少しでも知りたいと思うのではないか。それは相手が付喪神様でもその姿勢は変わらない。少なくとも私はそうだ。


 「んー?つまり…どういうこと?ああ、頭がショートする…」

 畳の上に寝転がり、目を瞑りため息を吐く。
 私は髭切について調べていた。理由は彼のことを知りたい、それだけだ。
 だから、色々な文献を取り寄せて読み漁ってみた。しかし、1000年も昔の話で諸説ありなため、いまいち何の手ごたえも得られず今に至る。これは元の主たちを辿っていくこともしないといけないだろうなと思った。ただ、彼は源氏の重宝と言われるだけあって歴史の荒波に揉まれていたことは間違いないことだけはわかった。私が思っていたよりもずっとすごい刀だったんだなぁが今の感想だ。もし、それについて怒る人がいたら、源氏だの平家だのいまいちぴんと来ないずっと後の時代生まれだから、ごめんと言い訳と謝罪をしておく。


 「眠っているの」

 目を開け、開きっぱなしの障子のほうを見れば髭切がいた。入るよと一言告げて私のそばに腰を下ろした。そして文机から一冊文献を取り、ぺらりとめくった。

 「君はそういうの気にするの」

 そういうの、というのは彼の来歴ということだろう。気にするというか……なんと答えればいいのか迷う。

 「どうして?」
 文献から目を離さずに彼は問う。
 「源氏の伝説の刀っていうのどういう刀なのか気になって……」

 私がそう言うと文献を閉じ、静かに文机に戻した彼は私の顔の横に手をつき、こちらに覆いかぶさった。バチッと髭切と目が合う。

 「僕は僕、でしょ?」


 あ、まずい……。

 
 それだけはわかった。

 普段の柔和な雰囲気はどこへやら暖色の瞳からは暖かさを感じない。穏やかな口調なのに威圧感と冷ややかさなんなんだろう。何でこんな居た堪れない気持ちになるのか。ここで謝ったところでだめな気がする。だからと言って何も言わず、考える時間が長ければ長いのもダメだ。

 「……そうだね。髭切は髭切だね」

 彼はふっと笑い、すっと頬を撫で、ちゅと口付けをした。



 わからない。今のでなんで機嫌が直ったの。

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