ある本丸の話
□散歩
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縁側で一人足をぶらぶらさせている小夜を見つけた。足を動かすたびにひょこひょこと動く髪が可愛いらしい。今日は宗三も江雪さんも遠征でいないため、一人で過ごしているようだ。部隊編成を決めたのは私だがかわいそうなことをしたのかもしれない。あ、そうだ。
「小夜」
と手招きすると、立ち上がりこちらへやって来た。可愛い。
「何?復讐する相手、見つかった?」
私はずっこけそうになった。今では慣れたものだが、初鍛刀で来た際には正直、どうしたものかと頭を抱えた。
「違うよ。復讐はしないよ」
「冗談だよ」
小夜は真顔でそう言い切った。小夜が冗談を言っただと?!と目を丸くしていると、
「何、その鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔。僕だって冗談くらい言うよ」
「えっあ、そうか!そうだよね?!」
小夜が少し丸くなった??表情は全然変わらないけどね。とはいえ、これは喜ばしいことだと思う。極めてからは小夜の持ち味が一段と際立った気もしていたが、それだけではなかったらしい。
「それで、用件は何?」
「散歩行かない?」
「仕事は?」
「今日のは終わった」
「そう。ならいいよ」
流石古参。しっかりしていらっしゃる。一瞬サボりはダメだよと目を光らせたのがわかった。
「先に玄関に行ってて」
「わかった」
私は一度、部屋に戻ってから本丸を出た。
今日は気持ちがいいくらいに晴れて、暖かい。羽織なしでも出かけられるくらいだった。春が近くまで来ている。私は深呼吸し、森林の香りを目一杯吸い込む。
「はあーっ!気持ちがいいねぇ」
「そうだね」
「最近どうよ?」
「別に普通だよ」
母親と思春期の息子の会話みたいだなと思い、少し可笑しくなった。
「そっか。まあ皆とうまくやってるならそれでいいんだよ」
「そう」
と思わずポフポフと頭を撫でた。小夜は少しくすぐったそうにしていたが払い除けたりはされなかった。
「小夜と散歩なんて久々だね。私が審神者になりたての時はよく山姥切と3人で出かけたよねー」
「そうだね」
私は緑を見上げながら歩く。あの時は渋る二人を無理やり引っ張り出したなあと思い出す。あの時はわからなかったけど、楽しんでくれていたと今ならわかる。感情を表にあまり出さない二人だからわかりにくかっただけだ。宗三や江雪が来てからはこうして二人で何かすることは減ってしまったのが少し寂しかったりするのは内緒だ。
「今度は皆で出かけようか。お弁当もって景色のいいところで食べるとか」
「いいんじゃない。桜もそろそろ見ごろだし」
「おお、お花見かぁ!いいね!歌仙と光忠にお重お願いしよう」
「ねえ」
グイッと袖を掴まれ、立ち止まる。それが可愛くてきゅうんとする。
「ん?」
「歌仙や燭台切さんが作るのもいいけど、たまにはあなたの作る卵焼き、食べたい」
「っ!?」
小夜が私にお願いしてきた、だと?!目を逸らして恥ずかしそうに言ってくるところとか可愛すぎる。思わず抱きしめたい衝動に駆られるが、必死で抑える。
「うん!いいよ。作る!」
「楽しみにしてる」
私は力強く頷いた。ああ、嬉しい。
「せっかくだし良さそうな場所見つけて下見しようか」
「僕、いい場所知ってる」
「おお。いつの間に!」
「こっち」
と小夜は私の手を掴み、歩き出した。私は嬉しくて握り返したら、小夜も握り返してくれてさらに嬉しくなった。
小夜の教えてくれた場所を下見し、その場で自室から持ってきたおやつを食べ、まったりした。日が傾き始めたので帰路に着いた。
「いい場所だったね!」
「でしょう」
小夜は少し誇らしそうな顔をした。
私は楽しみだなぁと色々想像を膨らませる。必要なもの揃えないとなぁと考える。結構な出費になりそうかなぁ……と考えるが、まあ貯蓄はあるしいいかと楽観的にいくことにした。
「ねえ」
「ん?」
小夜がつないでいた手をくいっとひっぱった。
「またふたりでも来よう」
「もちろん」
あまりこういうことを言わない小夜が新鮮で嬉しくて私はまた力強く頷いた。
今思えば、小夜に私の心はバレていて気を遣ってくれたのかもしれない。