ある本丸の話

□おにごっこ
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 「あるじさま、あるじさま」

 廊下を歩いていると、今剣と五虎退がこの本丸の主である主を呼び止めた。

 「ん。どうした?」
 「お、鬼ごっこするので一緒にしませんか?」
 
お菓子の催促かと思ったが、いつも菓子を渡そうとすると遠慮する五虎退がいるところを見ればそうではなかったかと一人納得した。ふと彼女は後ろを見やり、監視係が居ないのを確認すると、どこから出したのか履物を取り出し、二人に手を引かれ庭へと出た。とても嬉しそうな幸せそうな顔をしていたよ、と後に石切丸は語った。


 「あるじさまよんできましたよー!」

今剣がぴょんと跳ね、くるりと回る。

 「ようし!じゃんけんだ!」

厚がそういえば一斉に掛け声をあげた。何せ人数が多いためなかなか決まらないかと思われたが5回目で綺麗に決まった。

 「では、鬼は主君ですね!」

平野がわくわくしながら言った。そのキラキラとした目に胸を打たれたのは彼女だけの秘密だ。

 「では10数えるからね」

カウントを取り始めると、きゃははー!といいながら皆それぞれ散っていった。

 「はーち、きゅーう、じゅうー!」

10数え終わり、主はふと目に入った前田を追いかけ始めた。


 その頃、今日の近侍である長谷部が主を探していた。

 「まったく、主は困ったお人だ」

そういいつつも、怒ってはおらず、どちらかといえば少し嬉しそうに見える。

「どうしたんだい?」

偶然通りかかった石切丸が長谷部に声をかけた。
 
 「主を見なかったか?」

 「ああ。それなら、さっき今剣と五虎退と庭に行っていたよ」
 「なんだと!」

それを聞いた長谷部は目の色を変えぴゅーんと庭へと向かった。


 「ぜ、全然つかまらない…ハア、ハア」

これでは鬼ごっこにならないではないか!
主は絶望の淵に立たされていた。それもそのはずだ。日ごろからほとんど身体を動かすことのない彼女が捕まえられるはずがない。それに相手は短刀だ。しかし、当の本人はその事実にまったく気がついていなかった。
 彼女の周りには追いかけられていた前田、小夜、乱、今剣が半径1メートル圏内から動かない彼女を不審に思い見ていた。

 「いやー、退屈しないですむと思ってたがこれは想像以上だったな!まあ驚きはないが面白いな!はっはっはっ」
満足そうに笑うのは驚きが好きな鶴丸国永だった。短刀たちが主を庭に連れてきたときからここで彼女たちの様子を伺っていた。
 「主頑張れー!」

そう声をかけたのは獅子王だ。彼も退屈をしていたところ、彼らを見かけてここに来たらしい。
獅子王に応援された主はへろへろながらも、親指を立て任せろと顔を上げた。その瞬間に周りにいた彼らは蜘蛛の子を散らしたように逃げていった。そして5分もしないうちにバテて動けなくなっていた。それを見た鶴丸と獅子王は声を上げて大笑いしていたのは言うまでもない。

 「主ー!見つけましたよ!」

彼女はハッと長谷部のほうを向き、途端に青い顔をし、逃げ出した。ここで二人はああ、また執務中に抜け出してきたなと瞬時に把握した。長谷部は靴を履き、主一直線に駆け出した。すると、短刀たちが「長谷部さんも鬼ごっこですかー?」などとのん気なことを言っている。



 「何やってんの?主」

内番から戻ってきた加州と大和守が来た。

 「鬼ごっこだってさ」
 「え、長谷部さんも?」

大和守が驚いた顔をした。

 「まあ似たようなもんだな」

と鶴丸が笑いながら答えた。事情を察した加州は呆れた顔をしていた。

 「本当懲りないよね、主は」
 「そうだね」
クスリと大和守が笑う。

 「しかも短刀相手とか、主何考えてんの。追いつくはずないでしょ」
 「でも、楽しそうだよ」

皆の目線の先には長谷部が鬼だ皆逃げろー!と言いながら楽しそうに逃げ回る彼らの主がいた。



それから3分もしないうちに主は長谷部に捕まった。主や短刀たちにブーイングを受けながら皆、縁側へと集合させたれた。だが、戻ってきた主は息も絶え絶えで縁側に寝転がった。

 「主!皆の前でそんな格好!」
 「わ、っ、わかっ…ったっはあはあ!でも、いっいまっ…はあはあ」
言葉にならないほど息が上がっていた。はあとため息をつくと、短刀たちに向き直り、説教を始めた。


 「お前たちなあ!主と遊ぶときは手加減をしてさしあげろ!」
 「はーい…」
とすこししょぼんとしながら返事をする短刀たち。その様子を見ていた主が可愛い、尊い…と思っていたのは内緒だ。それを口に出せば説教が増えるに違いない。

 「注意するところはそこなのか?」
獅子王は呆れたように笑いながら言った。

 それから少し長谷部の説教は続いた。主はこの時間は執務中だということから始まり、刀剣男士としての心得の話などが出てきそうになりかけた頃、主は復活した。
 
 「お前たちは刀剣男士としての「長谷部、もういいよ」主!」
 「みんな、楽しかったよ」
とにこりと笑えば、刀剣たちはぶわっと桜が舞うかのごとく頬をほころばせた。
 「またやりましょう!」
 「もちろん」
 「主!」
 「まあまあ、長谷部。見なさい、こんなキラキラした目で見られて断れるわけないじゃないの」
そういう彼女の目もきらきらしており、長谷部は折れるしかなかった。

 「なんだかんだで長谷部も主に甘いところあるよね」
 「そうね」
クスクスと加州と大和守が笑う。
 「でもさ、主に短刀たちの特性忘れてるの教えといたほうがいいんじゃない?」
 「いや、黙っておこうぜ。その方が面白いからな!」
 「だなっ!」
 「鶴丸…、獅子王…」
しばらく退屈しなくてすみそうだな!と明るく笑う獅子王と鶴丸を見て、はあとため息をついたが、楽しそうに笑う主を見てまあいいかと加州は少し笑った。


 「次はかくれんぼしましょう!」
 「よしよし」
笑顔で約束する彼女たちをみて、あーこれ見つからないやつだな、と苦笑いしたのはいうまでもない。

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