ある本丸の話
□可愛いあの子
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昼下がりの居間には主と加州がいた。それ以外の者はいない。たまに声がするからどこかにいるのは確かである。
「ねぇ、主」
加州は机を挟んだ目の前で雑誌を読んでいる彼の主に話しかける。
「なぁに、加州。今日も世界一可愛いよー」
「ちょっと棒読みなんだけど!」
そう言われて少し面倒くさそうに加州を見る。
「なんなのさ。言わなきゃ言わないでこの世の終わりみたいな顔するじゃん」
「してないですー!」
とほんの少し頬を膨らませた様子でそっぽを向く。
「ははっ!そういうとこ本当可愛いよね!」
そういって主は意地悪そうに笑う。
「なっ?!何なのっ!もう!主!」
嬉しいのを隠しきれていない表情で怒る加州はなかなかに萌えるものがある。
「そ、そんなことより!」
「何?」
「どう?」
ずいっと両手を差し出してきた。何だ?と見る。
「んー。爪紅のブランドかえたね?あと、ハンドクリームもかえてるね。最近ハンドマッサージもし始めた?」
「え…?」
一瞬ぽかんとした加州だったが、ハッと意識を取り戻す。
「ちょっ?!怖いんだけど!!そこまで言われると!」
あまりにも詳細な変化に気がつく主に加州は恐怖を覚え、ドン引きした。
「んー?だって大和守から全部聞いたもん」
と主はからからと笑った。
「安定の奴ー!!」
「まーええやないの」
ぷんすこ怒る加州は可愛いなーとのん気に構えている。
「それじゃ意味ないし!」
「なんでさー」
主は机に肘をつき、意見を伺おうかと加州を見る。
「主が自分で変化に気がついてくれないとやだ」
しょぼくれた顔でうつむきながらいう加州が愛おしい。にやにやしてしまいそうだ。
「だだっ子みたい」
なんか、このやりとりカップルみたいだなとふと思う。もちろん彼女は加州。
「む」
キッと上目遣いで睨んでくる加州はあざといがやはり可愛い。
「加州さぁ、前髪切ったんだね」
「えっ?」
彼は目を丸くさせた。
「あれ?違った?」
加州はフルフルと頭を振った後バッ!と顔をあげた。
「なんでわかったの?!安定にも言ってなかったのに!」
嬉しいのか目を輝かせている。そして、机を飛び越えて、彼の両手で両手を握られた。
ああ、もう…。行儀悪いぞ…。長谷部に一期、歌仙や燭台切がいなくてよかったと胸を撫で下ろす。
「主すごーい!ちょっと切ったんだ〜!」
まあ、嬉しそうだからいいか、と微笑み加州の頭を崩れないようになでた。落ち着けと言わんばかりに。
「まあ、加州の主だからね。それくらいは、ね?」
「っ!!!主!本当大好きー!」
と飛びついてきた。ぎゅっと抱きしめ返したところで長谷部がお茶を運びに来てさらににぎやかになった。