ある本丸の話

□三日月宗近
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「三日月宗近なんておらんかったんや…」

「おい。現実逃避はやめろ」

表示された時間を見て呆然とそう呟いた主をやれやれと思いながら諌めたのは久々に近侍を任命された山姥切国広だった。

「だってさー!もうこの配合で何回目よ?!資源も限りがあるんだけど?!厚樫山もう常連なんだけど?!いや、私は戦出てないけど…。常連だよ?!もうね、厚樫山がゲシュタルト崩壊寸前なんだよ?!」


「俺に当たるな…」

意味がわからん、とどんどん興奮し始める彼女に冷静に返した。

「ぐっ…。そうだね。ごめん。皆頑張ってくれてるもんね」

「素直か」

「そこが私のいい所」
きゃぴっという効果音がつきそうな言い方だった。

「調子に乗るな」

そう言って次の鍛刀する山姥切は彼女を汚いものを見るかのように見た。


「最近初期刀がつめたい。反抗期かな?」

と、刀鍛冶は言われ困ったように微笑んでいた。同情したのはいうまでもない。

「……」
(心底うざい)


「いい加減始めるぞ」

「はぁい」
すこし気だるげに返事をし、立ち上がる。


「オール950でよろしく」

そう言い、懐を漁る。

「んで、富士札でも入れるか」
ぽいっと渡した。


「え、あ。おい!」
山姥切は焦った様子で声をかけた。

「ん?」

「いいのか?」
確かもったいないから使えないなぁとか言っていたはずだ、と山姥切は記憶していた。

「え?あー、いいのいいの。どうせとっておいてもねぇ。誰かが言ってた。御札なんて紙くずみたいなもんだって」
主死んだ魚のような目をしていた。その目で色々察したのは言うまでもない。

「罰が当たるぞ」
はぁ、とため息を吐いた。


カチッ
4:00:00

「ンああああああ?!」

「っ!」

その場にいた3人に衝撃が走った。


「て、手伝い札!」
長谷部もびっくりなスピードで札を使う。


そして、待ちに待った彼が顕現した。

「俺の名は三日月宗近」

目の前の三日月に呆気にとられていたが、ハッと主を見た。

(え。拝んでる)

数秒前は御札を紙くずだと言っていたあの彼女が。

三日月の言葉が終わり、沈黙が5秒ほど流れたあと、主は勢いよく山姥切を見た。

「山姥切!山姥切!ほら、見て!?」

「……」
(なんなんだ。急に興奮し始めたぞ。否、錯乱しているといったほうがいいのか?)

「ちょっ、ホント、あの、ほら!見て!」

「…ああ、見てる」
(三日月が若干引いてる…)

苦笑している彼を背後にしながら言う主は非常に滑稽だ。しかし、情緒不安定すぎて心配になった。
確かに、あれだけ会いたがっていたのだ。仕方ないとは思うが、あまりにも興奮しすぎだ。

「三日月!三日月宗近きた!夢?!」
狂気も入り混じった笑顔で山姥切と三日月を交互に見ている。

「おい、落ち着けっ!」


10分後。

「落ち着いたか」
とりあえず手持ち無沙汰であろう三日月を座らせ、彼女に深呼吸をさせ落ち着かせた。

「はい。嬉しくて…その、すみません」
先ほどの興奮状態を思い出して恥ずかしくなったのか、しおらしくなった。顔や耳だけでなく首まで赤い。

「はっはっは!そんなに喜んでもらえるとはな。出て来た甲斐があったというものだ」
引いていたであろう三日月はおおらかに返してくれた。

「三日月さん、すみません…」
主はぺこりと頭を下げた。

「良い良い」
ときらきらした笑顔で頭を撫でられた。

「っ!?」

山姥切があっと思った時には遅かった。

「や、山姥切!」

「いい加減落ち着け」

「はっはっは!」

いちいち興奮する彼女に山姥切はため息を吐いた。主の反応が面白かったのか三日月は笑っていた。

「アンタもやめてやってくれ!」



山姥切の気苦労が増えるような気がした。

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