西尾維新系

□翡翠様への捧げ物
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燦々と降り注ぐ陽光が茂る葉の間から零れ、石畳に光る宝石を転がす様を何となく眺める。
彩度の低い目にそれを映す事に飽きた青年は、小さく呟いた。
「――暇、だな」
この灼熱も大敵ではあるが、今直面している退屈のがずっと強力な敵かもしれない。
暑さにやられ木陰に逃げ込んでみたはいいが、こんな状況下することも思いつかない。
(どっか行くか)
ただ歩くだけで面白い――もとい、つっこみ処が満載な人物が数多散在しているのは、この里のいいところだと思う。
おかげで、退屈など感じない。

***

少し歩くと、組が違う三人を見つけることができた。孔雀、逆叉、蜂鳥だ。
共通点もない三人故に通り過ぎようとすると、蜂鳥に話しかけられる。
「あ、こんにちはー!」
「こんにちは」
少し幼く感じる口調が可愛らしく、つられて返事をする。
「こんにちは、斑猫様」
「何だい、君も僕の講座を聞きに来たのかい?」
どうやらこの夏に咲く花についての講座を行っていたらしい。
花の前にしゃがむ二人に向かって手を振り、そして口でも否定の意思を伝えようとするが、
「いや、そういう訳じゃ」
「いいじゃーん、付き合ってよー!」
隣まで走り寄って来た蜂鳥に言葉をさえぎられてしまう。
だが、特にやる事があった訳ではないし断る理由もない。暇さえ潰せればそれで良いのだ。
「――ちょっとだけだからな」
「えへへー、ありがと!」
日光に似合う、明るくにこーっと緩む口元を見ると許諾してよかったなぁと思う。
「こちらへどうぞ」
花の前に一人分増えた空間へと進み、――三十分もした頃には、そんな気持ちも消えうせるのだけれど。

***

「――と、言うことさ。一つの花につく花言葉にも、色々理由があるんだよ」
「わかったが、それは日が暮れるまで説明しなくちゃならない事だったのか?
水色から白へと綺麗に変わる色を誇っていた空が、すっかり朱色と黄色へと変わっている。
「当たり前さ。さぁ、僕の話からどんなことが解るか初めての受講者である斑猫君には解るかい?」
「俺か?」
いきなり話を振られたところで、途中から寝ていたのだから答えられるはずがない。
頭をひねっていると、呆れたような溜息が聞こえた。

「全く…この話からどんな結論が導かれるのかも解らないのかい?実に美しくない頭をしているようだね」
美しい脳みそがあってたまるか、どんな脳みそも見た目は皺以外ほぼ変わりはしない。中身は灰色、美しくは無いだろう。
つっこんでもどうせ「美しくない」の一言で一蹴されるだけというのは短いこの会話で学んだ。
今日、真庭斑猫は「美しい」対処法を覚えた。明日からでも即使えるその技の名前は「内心だけのツッコミ」。

「勿論、僕が美しいという事実のみさ」
「主語と述語が繋がってねぇよっ!!?」
ただし、今日から即使えるとは限らない。「花は、美しい」、どうしてこう繋がらない。何の説明を陽がとっぷり暮れるまで受けていたのだろうか。
「いやどうしてそうなんのっ、花が綺麗って話からあんたが美しいって話になるってどういうこと!?」
「あーうるさい。どうしてそんなに品のない声が出せるのか僕には理解できないよ」
「何でか教えてあげよっか?」
薄い青の瞳を幼子のようにきらきらと輝かせ、純粋な好意からの提案を簡単に予想させる蜂鳥に向かい軽く首を縦に振り肯定の意を示す。
「それはね、孔兄だからだよ!」
「期待した俺が莫迦だった」
「では手前が。それは孔雀様だからでございます」
「わかった、わかったから二度言うな」
何故そう当然みたいに言えるのだろう、もしやこの場では自分が異端なのだろうか。
だとしたら、浮いている。
「――邪魔して悪かった」
「邪魔などではございませぬ」
「そっか?ありがとな」
軽く会釈をする黒い頭に少しだけ笑いかけ、背を向ける。
とりあえず、暇潰しにはなったから良しとしておくが、今度は休める場所に行きたくて仕方なかった。

***

「疲れた…」
ぼそりと呟く声に返事はない。一人なのだから当然、なのだけれど。
(…会いたいな)
あの三人と別れた後の道中、海象と夜鷹の痴話喧嘩を見た。
どうしてお互いもっと素直にならないのか、と不思議に思うも、自分には言う資格はないかもしれない。
好きな人の前で意地をはってしまうという気持ちはよくわかる。
(……居るかな)
こんな事を考えて、脚が進む場所といったら一箇所しかない。

***

もうすっかり暗くなり、藍色に光が点在するようになった空を仰ぎ見る。
(――遅くなったな)
走るなり何なりとしてみればよかったかもしれない。
いや、例えこんなに遅れることを知っていたとして、きっと走れない。
それではまるで彼女に自分が会いたくて会いたくて急いでいるようで、自己嫌悪する。
(いや、会いたくなくちゃ来ないんだけどさっ!?)
ここまできて「邪魔だったらどうしよう」と考える悲観的な自分の思考回路が憎い。

うーんと扉の前でしゃがみ込み呻いていると、扉が開いて悩みの種、会いたかった人が目の前に現れた。

「――お?」
「………ど、どうしたんですか?」
いきなりの斑猫の来訪にも鈴虫は目を丸くしただけで、咎めはしなかった。
「あー…いや……」
「…ふふっ」
「何笑ってんだ?」
この状況下笑えることなど自分の奇行以外にありえないのだけれど、鈴虫の笑顔の原因は違った。
「いえ、…会いたいなー、と思うときに会えるものなんですね」
言って、自分の発言に顔を赤くして後ろを向く鈴虫の背中を同じくらい赤く顔を染めて見つめる。
「――あのさ、」

ただ歩くだけで面白い――もとい、つっこみ処が満載な人物が数多散在しているのは、この里のいいところだと思う。
おかげで、退屈など感じない。

だが、一番のいいところは、
「飯、とか…まだ?」
「! まだですよ」
緊張してぎこちない言葉になっている自分にも笑いかけてくれる、彼女が居る事。
まだ赤い顔が可愛らしい。
「今、丁度食堂に行こうとしていたところです」
きっとその道中には、斑猫も居ることが予定されていたのだろう。

良い時にきた斑猫を褒めるように、鈴虫はにっこりと微笑む。
それを見て思った。朝に見た光る石より今日習った花より、彼女の笑顔は美しいと。





*****
遅れて申し訳なさすぎて死ねる えと、2008年の3/10、18:15にリクエストを賜ったのですが、完璧忘れておりましたorz
「オリまにで小説、キャラやシチュは自由」というものでした。何でリク賜ったのか忘れましたがorz多分キリリクとかその辺かと?

「遅れてごめんなさい」ともう一本何かかいたり更にリクを受け付けたりしたいのは山々なのですが、体面上無理という悲しみ!
雑談とか小話をよく拝見してて関係もちょい解ってる、ちょっとだけ「書けそうだ」と思った孔雀さんと逆叉さんをお借りして。
だったら蜂鳥さんもつけたいと頑張ってみましたが結果他の方々書けないくらい体力消耗しました短くて本当すいませんorz
よそまにさんは描く方が好きです(訊いてない)

フォントサイズとかイジっちゃってるので小説とはいえないかもしれませんし相変わらずの低クオリティではございますが!
お収め下さいますと大変嬉しく思います――!書き直しとか受け付けておりますので!

texiauke@yahoo.co.jp こちらからどうぞ

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