西尾維新系

□あの日望んだものとの距離は、、、
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空に向かって、手をのばすのが好きだった。

背がのびるとどんどん近付いていっているのだと思うと、差が縮まるのが目には見えないのだがとても楽しい気分になる。

まるで何かを望んでいるようで。
それに近付いていっているようで。



空に向かって、手をのばすのが好きだった。



[あの日望んだものとの距離は、、、]


早朝の澄んだ空気を肺いっぱいに吸い込む。
冬の冷たいという特徴と合わさったそれが少し肺を痛めるが、普段味わっているもっと凄まじい痛みに慣れているので気にもならない。

「寒いな」
鳳凰は先程吸い込んだ空気を吐き出し、息を白く染めた。
それを見ながら、顔面の半分近くを『不忍』と書かれた仮面で隠した洋装の男が呆れたように返事をする。
「袖無しの装束だけでもどうにかしたらどうだ?」
「おぬしは厚着過ぎる…色気がない」
「野郎に色気を求めるな」
呆れたように出される白い溜め息が、自分にかかる位置まで近付く。
「求めるとも。昔のように我にまた微笑みかけてくれると期待している」
不公平だと、会う度思う。
毎度笑うのは自分だけだ。仮面のせいもあるだろうが、それを差し引いても彼の顔面の筋肉に動きは見られない。

もう、昔のように笑いかけてはくれない。


「なぁ、×××」

ぐぅ、っと、上に…空に向かって、手をのばす。

「何だ?」

昔とは、色々と変わりすぎてしまった。

「……空が、遠い」

空に向かって、手をのばすのが好きだった。

「何故だろうな。昔より、酷く…遠い」

まるで何かを望んでいるようで。

「お前は空との距離が判るのか?元々遠いのだから、昔も今も判らんだろう」

それに近付いていっているようで。

「…そうだな、…我は何もわかっちゃいないのかもな」
「何もかもわかる人間は居まい」
「それでも、だ。 なぁ…、」
「一息に言え、面倒な」

「また、会えるか?」

重々しい沈黙が、冷たい空気を更に痛々しいものにする。
寒いというよりは冷たい、冷たいというよりは痛い、そんな空気がしばらく続き、

「…頭領様程に、下の者に自由はないぞ」

「……そうか」
仕方がないな、言って笑うと「だろう?」と、困ったような笑顔が返される。

…嘘でいいから、「勿論だ」と言ってほしかった。

のに、苦笑しか貰えない。
「…頭領も、そこまで暇ではないんだけどな」

嗚呼、

「なら、もう会えなかったりしてな」

どうしようもなく、届きそうもなく、、、


「…かもしれんな」



空が、遠い

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