西尾維新系
□日々草
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バタバタバタと。
騒々しい足音を響かせ、陽炎を裂きながら少年が必死で走っている。
暑いのだから歩けばよいものだが、しかし汗だくになってでも急ぎたい処があるらしい。
少年が駆け込んだその家は、まわりを緑に囲まれた、人気のなさそうな家だった。
向日葵、紅花、菖蒲、――そして、日々草に、囲まれた家。
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「あーっ!!!」
「ごっ……ふ、うぇっほ、げほっ!!」
いきなり大声を出され、団子を静かに食べていた彼は自分の胸を痛いくらいに叩かねばならぬほどに驚いた。
「団子だーっ!我の分は、我の分は!?」
キャッキャとはしゃぎながら駆け寄ってくる少年の頭を抑えながら、団子を遠ざける。
「五月蝿いわっ!!お前の分なんぞ無い!」
「なっ……うっ、嘘だろ、×××?」
本気でショックを受け、ガックリと膝を付いてしまった少年のお凸を一回叩き、またそっぽを向く彼。
「…鳳凰よ、そう思える根拠をお前は何故持っている?」
「友達じゃないかっ!?」
「そうか。お前にとって『友達』とは食い物にたかれる奴のことを指すのだな、よく知ったぞ」
「――おぬし、何か今日冷たくないか…?」
ふんと鼻を鳴らし、その場に鳳凰と呼ばれた少年は座る。
「だがな、我は団子が好きということを、おぬしは知っているだろう?」
「あぁ、それもよく知っている」
答えながら、鳳凰に差し出されるものは何一つ無い。
串から団子が無くなったらもう一本手に取り、それを自らが食すだけだ。
鳳凰が見ている前で、四つが三つになる。
「それ、最後のじゃないか?」
三つが二つに。
「ん? む、本当だな。ではこれで私の昼食は終わりか」
「おぬし不健康だな……早死にするぞ」
「それもそうか。 ではやる」
串を勢いよく差し出され、少しだけ驚く。
「くれるのか?」
「一つでよければな」
「――むぅ、一つは嫌だな」
「わがままを言うな」
眉間に皺を寄せながら鳳凰が立ち上がり、団子を取りに往く。
その途中で、団子が二つから一つになった。
成る程、二つついている串を差し出しながらも「一つでよければ」と言ったのは、こういうことらしい。
年下相手に残酷なものだ。
「あ、いいこと思いついた」
「はぁ…?」
ニッコリと笑っている顔が近づいてきたかと思うと――
「!!?」
口付けられていた。 どうやら団子を食べたいらしい――何て卑しいんだと、彼は内心呆れかえった。
そのうち礼儀とかも私が教えてやらねばならんな…とも、思った。
「……人の口の中舐めまわしてまでとった団子は美味かったか?」
あからさまに嫌な顔をして見せても、全く気にする風はなく、鳳凰は笑い続けている。
「うん、美味しかった」
満足そうに笑みを深くする彼のお凸を先ほどと同じように――否、今度は強めに叩く。
「絶対他の者にそんなことをするなよ。いいな?」
「×××だったらいいのか?」
「もう二度と野郎と接吻なんぞ御免だ」
「ちぇっ」
「莫迦だろ、お前」
……そう言って、青年はその日はじめて、笑った。
彼らにとって、こんな喧騒は数年前から日常だった。
ある日突然やってきた少年は、青年と仲良くなり。
ちょくちょくやってきては相手をせがんだり、泊まっていったり、そんな日常。
少年が夏の終わりに、日々草を踏み潰しながら青年を殺そうと企み、『日常』を壊すのはこの日の僅か数週間後のことなのだが――
――それはまた、別のお話。
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日々草…夏から秋にかけて咲く、夾竹桃科の一年草。
花言葉…「友情・楽しい思い出」