テイルズオブシンフォニア
□シルヴァラント編
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愛用の箒に腰掛け、北西の空に居た私は南から流れて来た風の匂いに眉を潜める。
「急げ!急いでフォシテス様を基地へお連れしろ!」
「くっ、劣悪種が…!」
下の森の中を甲冑を着た者達が慌ただしく駆け抜けて行く。
『ディザイアンが何故、村の方から?』
おかしい。
ここの牧場と村は不可侵条約を結んでいた筈…。
それにこの風の匂い…。
私は、ここから少し南に位置する村の方へと飛んだ。
村に近づくにつれ、匂いの正体がわかった。
『これは、酷いな』
シルヴァラントの北西にある小さな村、イセリア。
そこは火の海と化していた。建物のほとんどが木製で出来ているから、人間では手が付けられないほど良く燃えている。
しかし、このまま全て燃やされては困るな…。ここは、マナの血族が住む重要な地だ。
仕方あるまい。
『水霊の弾丸弾けよ……ディフュージョナルドライブ』
小さく呟き、術を発動させる。
雨のような水が空から下に向かって落ちる。
これで、しばらくすれば鎮火する事だろう。
空から下の様子を見ていると、地に踞り、うわあああと泣き叫んでいた銀髪の少年と、その横に居た赤い服の少年に、男が何やら怒鳴っていた。
『…差し詰め、あの子らが牧場に近づきでもしたか…』
少年達は追放宣言されて、白と翡翠色の大型犬のような生き物を連れとぼぼと村の東側の門へ向かって歩いていく。
それを見て私は箒に乗ったまま彼らを追った。
そして、門を出てすぐ森に入った彼らに声をかけた。
『ちょっと待て、少年達』
「な!誰だ!」
赤い服の少年が、腰に据えた二本の剣の柄に触れながら、左右をキョロキョロと見渡した。
『上だよ、少年』
そう声をかければ、二人の少年にが同時に顔をあげた。
「なっ!?」
「ヒトが、箒に載って浮いてる!?」
『いやぁ、いいリアクションをありがとう。最近の子は冷めてて、あんまり驚いてくれないのが多いからねぇ』
「なんだ、お前ディザイアンか?」
赤い服の少年は、白いフード付きのコートで顔を隠した私を警戒してか、双剣をひきぬいた。
銀髪の少年もけん玉を握った。
……けん玉で戦うつもりなのだろうか。
『…ディザイアン、ねぇ』
ぴゅーと突風が吹き、フードが後ろへ飛ばされた。
『…おっと、』
空に居たらこの風で箒ごと流されそうなので少年達の居る地上へと降りる。
『ん?』
銀髪の少年が青い顔をして口を金魚みたいにパクパクとさせていた。
「どうしたジーニアス?」
赤い服の少年が問うと、ジーニアスと呼ばれた銀髪の少年は私を指差した。
「エルフ、」
「え?そうなのか?」
赤い服の少年は首を傾げた。
『ふふ。君、エルフに逢うのははじめてか?』
「いや?だって、ほら!ジーニアスもエルフだしな!」
「ロ、ロイド!」
ジーニアスは慌てて赤い服のロイドという少年の腕を掴んだ。
『……』
ふむ。そういうことか。
彼の耳まで隠れた長い髪を見て納得した。あの姉弟も耳を隠すため髪を長く伸ばしていたな。
「なんだよ、ジーニアス…ん?こいつ敵だっけ?」
「そ、そうだよ!」
『ははは、敵ではないよ。それにそっちの少年は同胞のようだしね』
そう言って、ジーニアスに笑いかけると、彼は青い顔のまま首を立てに振った。
「同胞…、ってどういう意味だ?ジーニアス」
がくっ、とジーニアスはコケた。
「もう、ロイドは…。わからないならいいよ」
「え、なんだよー!教えてくれよ!」
『あはは、簡単に言えば同じエルフって事だよ』
そう言えば、ロイドはそっかーと頷いた。
「あの、」
『ん?なんだい少年』
「もしかして、さっきの雨……、あれは貴女の魔術、ですか?」
『おや、術だと気づいたか』
うん、とジーニアスは頷き、ロイドはなんの事だと首を傾げた。
「雨に濡れたところの傷が治ってたから…」
ジーニアスの言葉を聞いて、ロイドは服の袖を捲ってみる。
「ん?おおーホントだ!あの雨あんたがやったのか?すっげぇ!」
『まあね。ところで、君たちに声をかけた理由なんだが…』
あ、忘れてた。と二人は声を揃えた。
『君たちの後ろに隠れている生き物、見せてくれないか?』
「ん?ノイッシュの事か?」
ノイッシュ、やっぱり。
ノイッシュはクゥンと鳴いて、私に擦り寄って来た。
それを見てロイドとジーニアスが目を見開いた。
「…ノイッシュが警戒しない!?」
『やあ、いい子だねノイッシュ』
よしよし、とノイッシュを撫でる。
『この子を何処で?』
「俺と、俺の母さんと一緒に倒れてる所を親父が助けてくれたんだ」
『ふむ?』
母親と倒れていた、所を親父に???
行き倒れていた親子を今の彼の父親が拾った、と言うことだろうか。実の父親だと話がおかしいもんな。
「ロイドのお父さんは義理のお父さんなんけど、ドワーフですっごい器用なんだよね」
「へへ、まあな」
ああ、悩んでいたらちゃんと解説してくれた。
しかし、まだシルヴァラントにもドワーフが居たか。皆、あの子に連れ去られたかと思ったが、そうでもないらしい。
『ドワーフ…。つまりこの子は君の母親が飼っていたのか』
「ああ!」
頷くロイドの顔を、じっと見つめる。
「な、なんだ?」
『君の血の繋がった父親はどんなヒトだ?』
「えっ、分かんねぇよ。俺、拾われたの3つの時だぜ?」
3つか。それは顔も覚えてないかも知れないな。
『そうか…』
何となく、似ている気がするが……。まさかね?
まあ、いい。
ロイドから視線を外し、ノイッシュの頭をもう一度撫ぜる。
『君は今、幸せかい?』
クゥンとノイッシュは鳴いた。
『そうか』
ロイドとジーニアスは不思議そうに、一人と一匹の様子を見ていた。
『いいものを見せてもらった。ありがとう』
私はフードを被り直し、箒に跨がる。
「なんだ、もういいのか?」
『ああ』
ノイッシュが名残惜しそうに鳴く。
『じゃあね』
誰かに似た二人の少年に別れを告げた。
雨降って地固まる
村の方に戻れば、魔術で降らせた雨はもう止んでいた。