テイルズオブシンフォニア

□過去編
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『…本当に行くのか?』

「ああ」

こくり、黒髪を高い位置で結った女が頷いた。

黄泉の国の神子の暗殺。それが今回の任務だと、彼女は言った。

「あたしが…やるんだ。あたしがやらなきゃ…テセアラは…」

彼女はグッと拳を握った。

『そうか…』

彼女は、自分よりも他人の為に動く子だ。
自分を犠牲にしてでも、任務を全うしようとするだろう。

「ああ…。そういうわけで行ってくるよ。所長には世話になったから、挨拶はしておこうと思って」

そう言った彼女の頭にポン、と手を置く。

もう19歳か。大きくなったものだ。

『コリン』

彼女の肩に乗った、人工精霊に声をかける。
相変わらず嫌われているようで、私を睨み付けてきた。

『…しいちゃんを頼むよ、コリン』

「…あんたに言われなくてもしいなはコリンが守る!」

そう言った人工精霊の首に着いた鈴がチリンと鳴った。実に頼もしい。

『ふふ、そうか。頼むよ』

しいな、と彼女の名を呼ぶ。


『辛くなったらいつでも帰っておいで』

私は君の味方だから。



「行ってくるよ!」

行ってらっしゃい、と研究所の入口で見送った。


『神託が降りたのか』

何年ぶりだろうか。

『今回は上手くいくといいけど、……しいちゃんが刺客かぁ…』

困ったものだ。
ぶっちゃけ、世界再生はされて欲しい。
だが、そうなると、刺客として向かうしいなには、失敗して貰わなければいけない。
殺しに行くんだから、殺されるかもしれないのは、しいなは100も承知だろうが……。
また、私の見てないところで私の可愛い子供達が死ぬのか。

長い年月を生きるエルフだから、人間たちが私より先に死ぬのは当たり前だが、あの時あの子が殺された時立ち会えなかったからか、私の目の見えるところで死んで欲しいと願うようになってしまった。

そもそも、大切なものを作らなければ良いだけの話だが、そう簡単に心を殺す事は私にはできないのだ。

大切なもの守るために私は今もなお、私として生きているのだから。


………、守る?そうか、単純な話だ。何を困る事があっただろうか。


私が守れば良いのだ
今度こそ。

『すまぬが、しばらく研究所を空けるぞ』

「ああ、はい」

研究員達に伝えれば、またか、と言うように彼らは返事した。

「今回はどちらの神殿に?どうせまた長期になるなら定期的に連絡を下さいね。所長じゃないと処理出来ない案件もありますから」

研究の為に神殿に行って1、2年戻らないのはざらだ。エルフやここの研究員のハーフエルフからすれば些細な時間なのだが、人間からすれば待てぬ時間らしい。早く書類にサインをくれと数十年前も、神殿まで押し掛けてきたことがあったな。

『シルヴァラントに!』

そう言えば、ええっ!?と流石に驚かれた。

『大丈夫。ちゃんと定期的に連絡するし、仕事しに帰ってくるよ』

待ってください!という研究員の制止も聞かず、じゃあね、と箒片手に研究所を飛び出した。


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