テイルズオブシンフォニア
□過去編
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「所長!起きて下さい、所長!」
ガクガクと肩を揺さぶられる感覚に、目を開ける。
『うぁ?…んー…、しいちゃんかぁ。すぅ…』
「寝るなー!!」
再び目をつぶれば、目の前に立っていた子供が叫んだ。
『んー…うるさい』
ぐい、と、私を起こそうとしていた14歳の少女を抱きしめた。
「わ、ちょっと…所長!」
少女はすっぽりと腕の中に収まり、かああっと頬を染めた。
『んー、しいちゃんは可愛いな〜』
この子はミズホの里から預かっている子供だ。以前、イガグリ殿の手に余るようなら、と私は言ったが、彼らが送り付けて来た訳では無い。この子自身が拾ってくれた里の役に立ちたいと、自分の身が行かせる場所を選んでここに勉強に来ている。凄くいい子で可愛いのだ。
すりすり、と頬擦りすると、ガツンと頭に何か落ちた。
『痛っ、』
「所長、犯罪です」
研究員の一人が、分厚い本を片手にそう言った。
なるほど、あれで殴られたのか。
『ふぁ…。まったく酷い扱いだな。それで、なんの用だ?昨日遅くまで実験してたから眠いのだが…』
そう言えば研究員は、やれやれと言ったように大きなため息を吐いた。
「今日はサイバックの研究所から人が来ると伝えていた筈ですが?」
『…ん?ああー、そうだったな!』
「絶対忘れてましたね」
ハッハッハッ、と誤魔化すように笑って、しいなを腕から外し、寝ていた床から起き上がり、書類で散らかった机の前に移動する。
『…うーん、汚いけど仕方ないか。…んで?もしかして、もう来ているのか?』
「ええ。所長が起きないから、受付で待って頂いてます」
『と、それはまずい。しいな、呼んできてもらえるか?』
「はい!」
しいちゃん事、藤林しいなは頷いて、受付のある上の階へと登って行った。その間にとりあえず髪だけ結び直すとしよう。
『ふむ。素晴らしい。良くここまで調べあげたものだ』
サイバックからやって来た研究員が持ってきた資料に目を通す。
『しかし、これを本当に君が?』
目の前にいるサイバックからの研究員は齢9歳の男の子だった。金の髪に緑の目を持ったこの子少年はしかも人間だ。知能の高いハーフエルフではない。
「はい。僕の考えでは、魔物たちを統べる存在がいてもおかしくないと思うんです。過去に、精霊の神殿で異常なマナの確認もされている筈ですよね?」
『確かに、数百年前に氷の神殿で、数十年前に地の神殿周辺で異常なマナの観測と、魔物の大量発生があった』
精霊とは別の魔物を統べる者。しかしながら精霊との関係性が無いわけではない。
まさか人間の子供が、彼等の存在に気付くとは。
『実に面白い。研究で必要な設備があるなら貸し出そう』
「本当ですか!ありがとうございます!」
ぺこり、と少年は頭を下げる。
「ところで!」
少年は、何処かうきうきとした様子で顔をあげた。
「こちらには人工的に作った精霊がいるとか!」
『ん?ああ。見てみるかね?』
是非!と少年が頷いた。
少年をとあるガラスケースの前へと案内する。
「これが、人工精霊…」
ガラスケースに入れられていたのは、狐に似た姿をした三尾の生き物。
「うわ、起きた」
寝ていたそれは、目を覚まし、ケースの中で威嚇するように唸った。
『実験でいろいろとするからね、ヒトが嫌いなようだ』
「そうなんですか…」
『ただ、契約者にはなついているようだがね』
そう言えば少年はえ?と目を開いた。
「ルフェルニル所長が契約者じゃないんですか!?」
『召喚術には才能がいるんだよ。自分にはその才は無くてね。先ほど君を呼んできた女の子。彼女がこの人工精霊の契約者だよ』
「え、さっきのお姉さんが?すごいなぁ」
『…君は、驚かないのだな』
「え?驚いてますけど…?」
こてん、と少年は首を傾げた。
『精霊研究者なら知らない事はないだろう?』
契約には、天性の才能と別に…。
「エルフの血を引いているって事ですか?」
『ああ。あの子は一見ふつうの人間だからな』
少年は、んー…と唸って頭を掻いた。
「でもまあ、僕の友達もハーフエルフなんで…」
『…!』
「特にどうっていうのはないですね」
『そうか』
ふっ、と笑みが溢れる。
いつの時代にも変わり者はいるものだ。
『君、名をなんと言ったっけ?』
「アステル・レイカーです」
『そうか。レイカー博士』
「えっ、僕まだ博士号は取得してませんよ!?」
『ハハッ、そのくらい期待してるって事だよ』
そう言えばレイカー博士は慌てて、ありがとうございます、と頭を下げた。
「コラー!開けようとするな!」
何やら部屋の外から女の子のそんな叫び声が聞こえた。
「所長は今お客さんの相手してるって言ってるだろ!」
「えー、この俺様が来たってのに?」
「アポくらい取って来いっていつもいってるだろ!!このアホ神子!!」
「……何やら騒がしいですね?」
きょとん、とした様子のレイカー博士と、外の騒がしさに苦笑する。
『レイカー博士、わざわざメルトキオに来られたんだ。ついでにテセアラの神子様も見ていかれるかね?』
「神子様を!?是非!」
そう言って純粋無垢な目でレイカー博士はうなずいた。
見世物にしたら彼は怒るだろうけど、来客中に騒いだ罰だ。
『少し待っていてくれたまえ』
そう言って、まだ向こう側が騒がしい扉に近づき思いっきり開けた。
『来客中は、静かにしなさい!』
そう怒れば、黒髪の少女と彼女に首根っこを掴まれた赤毛の少年が、こちらを振り向いてバツの悪そうな顔をした。
「ほら、しいなが怒鳴るから」
「元はと言えば、来客中だって言ってんのにアンタが無理やり入ろうとするからだろ!!」
2人はこちらを無視してやいのやいのと言い争いを始める。
『はあ……。悪いねレイカー博士。これがテセアラの神子だ』
「思ったより賑やかな方なんですね」
神子様だなんて、もっと厳かな感じの子だと思うよね。
なんでこんな風に育ったのか……。
まあ、ゼロスくんが来るとしいちゃんも楽しそうだし、いっか。
3人の子供たち
勝手に学童始めないで下さいと他の研究員たちに怒られた。始めてないです。