ルミナリア
□マクシム・アセルマン
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眠り姫は(1/1)
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校舎を出て中庭に出るとぽかぽかと暖かい陽が差していた。
『こう暖かいと眠くなるねぇ〜。日向ぼっこ出来そうなとこないかなぁ』
「ブレイズがそんなんでいいの?こういう時こそ自主訓練でシャキッとさせないと!」
そう言う友人に連れられ、学園内の訓練場へ向かって足を運ぶ。
暖かな陽気の中、ぶわっと強い風が吹き慌てて制服のスカートを抑える。
「すっごい風だったね」
『うん。珍しいね、ルディロームでこんな強い風が吹くなんて』
このイーディス騎士学校のある森都ルディロームは比較的穏やかな気候の土地なので、突風が吹くのは珍しい。
『あれ?』
訓練場へ向かうまでに敷かれた石畳の上に、先程まではなかった帽子が落ちていた。
『これは………』
駆け寄って見覚えのあるその帽子を手に取る。
「落し物?って、あー、それナマエと同じブレイズの煩い子のじゃない?」
『煩いって……、可愛い後輩だよ?』
私とあまり身長の変わらない男の子の姿を思い出して思わず笑みが零れる。
「ふぅん、へぇ〜」
ニヤニヤと笑いだした友人に、なに?と首を傾げて見れば、べっつに〜と彼女は言ったままニヤニヤとした顔を隠す様子はない。
ああ、勘のいい子だから、私がこの帽子の持ち主に気がある事を察されたな。そして意地が悪い子だから暫くはこのネタでからかってくるんだろうなぁ。
しょうがないとため息を吐き、手にした帽子を彼に返さなくては、と考える。
『これ、向こうから飛んできたのかな』
訓練場手前の分かれ道、石碑のある方を指せば友人も、うん、と頷いた。
「風向こうからだったもんね」
『これ届けてくるから、先に訓練場行ってて!』
「ふ〜ん。頑張りなさいね〜」
そう言って手をヒラヒラと振った彼女は、真っ直ぐ訓練場の方へ歩いていく。
『頑張るって……だだ帽子を届けるだけだって……』
全く、もう。
さっさと届けてしまおうと、左手に曲がる。
『あ……』
なるほど。そういうことね。
どうりで帽子が飛んだのに、彼の悲鳴が聞こえなかったわけだ。
石碑エリアに設置されたベンチのひとつに、帽子の持ち主が横になっていた。
つかつかと歩み寄って、ベンチの傍に立ち覗き見れば、彼はスヤスヤと寝息を立てていた。
『寝てる……。フレデリックさんは……』
周囲をぐるりと見渡す。
『いないね……』
今ベンチで寝ている、彼の従者であるフレデリックさん。今日は傍にはいないようだ。
まあ、いたら帽子があんな所まで飛んで来てはないだろうな。
『うーん、こんなに気持ちよさそうに寝てたら起こすのは可哀想だなぁ』
そっとその場にしゃがみこんで、その顔を覗き見る。
一房の目立つ赤い色のメッシュがあるピスタチオグリーンの切り揃えられた彼の頭の上に、葉っぱがちょこん、と乗っていた。
さっきの突風で帽子が飛ばされ代わりに乗ったようだ。
帽子を片手に持って、空いた手で頭に乗った葉っぱを払ってやる。
『髪の毛サラサラだなぁ。羨ましい。下まつげも長いよねぇ』
18歳前後の男子にしては、ずいぶんと可愛らしい顔をしていると思う。
頬を見れば、帽子が飛ばされ顔が陽に当てられたせいか、薄桃色に染まっていた。
思わず人差し指で彼の頬をつんつんとつついてしまえば、んぅ、と彼は小さく身動ぎをした。
起こしちゃったかな、と思わず手を引くが、目を開く様子はなく、ほっと、息を吐いた。
すぅ、と寝息を立てる彼の口元に、ふと目がいく。
猫口っぽい彼の下唇はぷっくりとしていて可愛らしい。そっと人差し指でなぞるとフニフニと柔らかく、艶もあって美味しそうだ。
『眠り姫みたいだなぁ』
御伽噺なら眠り姫は王子様のキスで目が覚めるけど。
『……、こんなところで寝て、襲われても知らないよ』
彼の頬に掛かる赤い房を手に取り、その髪に自分の唇を触れさせる。
あの子は頑張れって言ってくれたけど、流石に片想いの相手の唇や頬にいきなりキスする勇気は出ないや。
『ふふ、まあ、唇じゃなきゃ起きないよね』
持っていた彼の髪を手放して、持っていた帽子を彼の顔の上に乗せる。
『さてと、私も訓練場に行かないと……』
そっと立ち上がって、その場を去った。
被せた帽子の下で、顔をメッシュの色と同じくらい赤く染めたマクシムが居ることを知らずに……。
眠り姫は
実は頬に触れられる前から起きていて、今のなんだったの!?とナマエの立ち去った後、帽子で赤い顔を抑えたまま1人で困惑していた。