ルミナリア

□マクシム・アセルマン
4ページ/14ページ

言葉の上で踊らせて(1/1)※夢主がタラシ
────────────────────


『キミは、本当に可愛らしい顔をしているね』

そう言って、机を挟んだ向かい側からナマエ先輩は僕の頬に手を添えた。

「なっ、何を言ってるんですか。やめてください」

やめて、と言いつつもその手を自ら振り払うことはない。

『すまない。綺麗なものにはつい、触れたくなってしまうんだ』

先輩は謝るが、離す気はないらしく、親指の腹で僕の頬を撫でた。

「……昨日はヴァネッサくんを触ってましたね」

『見てたのかい?』

きょとん、とする先輩を見て僕は目を逸らす。

「通り道で、たまたま目に入っただけです」

『そうか。ふふっ、あの子は警戒心強いからなかなか触らせてくれなかったんだけど、昨日は可愛かったなぁ。頭のうえに葉っぱを付けてて』

なるほど、それを取るのを口実に近づいたわけか。

『綺麗な翡翠色の瞳だと褒めたらガチガチに固まっちゃって……。本当に可愛い子だよヴァネッサは……』

うっとり、とした様子で話す先輩を見てため息を吐く。

「そうやって誰でも口説くのはやめたほうがいいですよ」

『そんなつもりはないのだがね?』

「先日も新入生が困っていたでしょう。僕が止めに入らなければ、あのまま口説き落としてたでしょう」

『ああ。ユーゴ・シモンくんだね。彼も美しい顔をしてたから、つい』

「ついで口説いてレオ・フルカードに、男色家だと間違われていたのは何処の誰ですか?」

先輩は話口調がこんなだし、見目も髪を短く揃えており、背も僕より高いし、声も女性にしては低い。そして制服は剣を振るうのにスカートは動きにくいとズボンのスタイルを選んでいるから、毎年新入生が入る度、男性だと勘違いされている。

『あそこまでハッキリ男が好きなんですか!?って聞かれたのは面白かったね』

「しかも、そこで先輩がそうだよ、と返事をするから余計ややこしくなったんですよ」

『間違ってはないだろう?私は、女性も愛らしくて好きだけど恋愛対象は男性だからね?』

そう言って先輩は僕の頬に添えていた手を滑らせて、指先で喉仏に触れてきた。

「っ、せん、ぱい……」

『ふふ。マクシムはまつ毛は長いし瞳は大きくて可愛らしい顔をしているけれど、ちゃんと男の子なのが魅力だね』

「っ〜〜!」

流石に我慢ならなくて先輩の腕をつかむ。

「…それはダメでしょうよ」

『そう。残念』

鏡を見ずとも自分の顔が赤いのが分かるし、目の前の女は愉快そうに目を細めるので余計に腹立たしい。
この人は自分以外の他の男にも女にもきっと同じことをする。
そう頭で分かっていても、触れてくる指先が好意だと勘違いしてしまう。

「本当に誰彼構わずに口説くのはやめてください」

掴んでいた先輩の手を離す。
僕にはこの手が誰に触れるのも止めることは出来ない。

『そんなつもりはないんだけどね』

そうだろう。
先輩からすれば、ヴァネッサくんの瞳を綺麗だと言ったのも、ユーゴの顔を美しいと称したのも、僕のことを可愛がるのも、宝石や絵画を見てるのと変わらない、ただの褒め言葉なのだから。


言葉の上で踊らせて
先輩の賞賛が全部僕だけの物だったらよかったのに。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ