お題

□3.それは我が儘というものだよ
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大佐に自分の気持ちを否定されてから、図書館の文献は気にはなるが大佐に会いたくない気持ちのほうが大きくて東方司令部には寄らずに、古本屋で時間を潰す日々を送っている。


好きな人にハッキリと迷惑だと言われるのはかなりキツイものがあった。
正直、自惚れもあった。大佐は口で言うほど自分のことを嫌っていないと思っていた。

子供の恋愛ごっこだと馬鹿にされて自分の気持ちは確かにホンモノなのに言い返せなかったことに腹が立った。

気持ちの整理がつかず、古本屋に向かう道中ぐるぐると考えにふけっているとキキーィッ!と物凄いスリップ音が聞こえてきた。
音のする方を見れば暴走車が美術館の方向へ猛スピードで突進していた。
あいにく、美術にはあまり興味がないが、あのこのままでは運転手どころか、憲兵や周りの民間人の命が危ない。

『いくぞ、アル!』
「うん!」

おそらく同じことを考えていた弟と共に走り出し、錬成で地面を変形させ、自分は前輪を、弟は後輪を止めた。

間一髪で命拾いしたドライバーは状況が呑み込めないようでぼんやりしていたが、憲兵がこちらに寄ってきて何度も何度も礼の言葉を述べた。
いつもなら、鋼の錬金術師エドワード・エルリックを若干大げさに自己紹介するが、今はそんな気分にもなれないので、国家錬金術師の証である銀時計を見せてその場を立ち去った。
人の心情に敏感な弟には先日のことは何も話していないが、兄の様子から何か勘付いているらしく、何も言わずについてきてくれた。


古本屋に着いても古書探しにあまり熱が入らなかった。大佐のことを考えているわけではないのに、ずっと心が重たくて何をしていても苦しい。そんな兄の様子を間近で見ている弟もなんだが気分が沈んでしまって本に集中できなかった。そんな調子ではお目当てのものなど見つかるはずもなく、結局何の収穫もないまま帰ることになった。
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