Variant

□one
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『―――のう、重國よ』

「何じゃ」




夜半の頃、私と重國は酒を供に月見をしていた。

今日は満月から少し欠けた十六夜の月で、それでも明るさは変わらず、手元は十分に見える。

空になっている重國の杯に注ぎ足し自分は手酌で注いだ。




隣に座る男の視線は前に向いたまま此方を向きはしないが、それはいつもの事。

私もまた、視線は合わせるつもりも無いので支障は無かった。




『護廷が出来て五十年経った。もう良かろう』

「降りるというのか」

『他の奴等も隊長職が板についてきておるし、勝手も分かるだろうて』

「死神を纏め上げるのは一番力を持った者でなければと言ったのはお主じゃぞ」




横で重國が一気に杯を煽る。




「儂は未だお主には及ばん」

『はっ。私がお前より強いのは早い段階で極めた所為だ。お前の底はまだだ』

「分かった風な事を」




機嫌を悪くしたような声色で唸るが怒っていない事は長い付き合いから分かる。

此奴はそういう奴なのだ。

褒められても素直に受け取らず自分が納得出来るまでは認めない。

数百年経ったら頑固爺とでも呼んでやろうか。




『私と出会ってからお前の姿は成長したのに、何故私は変わらぬか。察せぬお前ではあるまい』

「……」

『私の限界は此処だよ』

「だが其れを越えられる者は居らぬ」

『今はな。あと数年か数十年か、お前は確実に此処に辿り着く。私を抜くやもしれんなぁ』




カラカラと笑う。

それだけ重國の霊圧はまだ底が見えなかった。

今でも他の隊長格以上に強いが、更に腕を上げるだろう。

私は確信していた。




『まぁ、まだ越されるつもりは無いがな』




そう言うと今度は聞こえるようにため息を吐いた。

何を言っても私が引きはしないと分かったか。




「それで、この後は如何するつもりでおる」

『嗚呼、隊を異動しつつ良いのが居たら育てようと思ってね』

「また面倒な…」

『私等が二人共上に居たら下に目が届かぬだろう?三席までならやっても良いぞ』

「ふん…ならば各隊をたらい回しじゃな」

『おいおい、数年毎には止してくれよ?流石に疲れる』




此奴なら本当にやり兼ねないから怖い。

死神一人一人見て、育てるのに数年で出来る訳無いのに、それをされては困るぞ。




一抹の不安を抱きながら、後日私は総隊長の座を降りた。




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