花神、月夜に咲く

□第四夜
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翌朝、早くに起きて屋敷を発った俺と政宗は現在、鬼の前に正座していた。

誰のことだって。

そりゃあ、言わずと知れた、政宗の腹心だ。




俺等二人と同じように片倉さんも正座しているが、だというのに威圧感は半端ない。

恐ろしい。

ちょいちょい静電気発してるし、青筋立ってるし、一言でも余計なことを言えば爆発しそうだ。

いや既にさっき爆発した。




「……政宗様」

「Oh...」




主の政宗の方が委縮してるって大丈夫なのか。

いいのかこれ。




片倉さんは更に眉間の皺を深くし、ぎりりと俺を睨む。

言葉で言われなくても分かる。

俺が何者かはっきりしない上に城内に入れて、あまつさえ仕事を与えるだなんて。

戦国時代に疎い俺でも、普通ではないこと位承知済みだ。




「小十郎が何を申し上げたいか、お分かりでしょうか」

「…I know」

「南蛮語は分かり兼ねます故、」

「分かってる」

「ならば」




俺に向けていた視線がそのまま政宗に向いた。

ヤクザも尻尾巻いて逃げそうな程の眼力だよ、とんでもないな。

それを真っ向から向けられている政宗は流石動じていない。




「だがな、俺の寝首を掻くつもりなら隙はあった。なのにコイツは血を飲んで終わりだ。城下の人間も襲ってねえと言ってる」

「しかし、万が一のことがあれば…」

「Ha!そん時は俺が斬る!」

『え、俺斬られるのか』




威勢よく不穏な発言が聞こえたのでつい突っ込んでしまう。

嫌だよ、幾ら丈夫な体になったって言っても死ぬことはあるんだから、長生きしたい。

自信満々の政宗に、ついに蟀谷を押さえた片倉さん。

気の毒に…主がこんなんじゃ大変だろう…。

胃に穴とか開きそうだな。




心の中で同情しているとその鋭い三白眼が向けられた。




「テメェ、もし城内で何か仕出かしてみろ。その時は…」

『大丈夫大丈夫、何もしねえって。血の提供者はいるし、腹減らすこともないからな、誰かを襲う理由もない』

「さっきから思ってたが、その血の提供者ってのはまさか」

『そ。政宗』




答えた瞬間また目がぎらりと光った。

おお、恐ろしや。

政宗には「言うんじゃねえ、このバカ!」と頭を引っ叩かれた。




『どうせバレる時はバレるんだし、今言っても同じだろ』

「そりゃあそうだが、」

『なら今のうちに言っておいたほうがいいって』




睨み付ける片倉さんに視線を遣り見据える。

目が赤いからといって視界まで赤くなることはないとこないだ知った。




『血を貰う代わり此処で働く。それが政宗からの条件だ。主が決めたんだから問題ないだろ?』

「テメェッ…」

『それとも何か?アンタがくれるのかい?』

「政宗様の血をテメエなんぞにやるくらいなら」

『残念。今は腹いっぱいなんでな。要らねえよ』




好みもあるしなーと付け加える。

そう、今回政宗の血を飲んで、好みがあることが分かった。




まず俺の年齢と近いこと。

余り離れすぎていると血液の中を流れる成分や量が変わるので、あまり美味そうには思えない。

次に同性であること。

これも似たような理由だが、女性ホルモンやら男性ホルモンやらが関係してくるんだと。

神が言ってた。

最後に、力を持っていること。

力ってのはこの世界だと婆娑羅のことで、それぞれ属性があるらしい。

聞いてみれば政宗も婆娑羅者だった。



これらの条件をクリアするのが意外と面倒なんだ。

今の三つに更に加えて匂いや血の舌触りも俺好みじゃないといけない。

なんて面倒な。




てか、同性って時点でこれあれだよな、腐ってるよな。

しゃあない、管理人が腐ってるんだから。

俺が拒否の姿勢をしたことで、自分の血を与えることは無理だと判断した片倉さんは、その恐ろしい視線を未だ向けている。




主を思う片倉さんの気持ちは分からないでもない。

吸血鬼って時点でも充分に怪しいし本物なのかどうかも疑わしい。

なのに政宗は城内に入れて、その上、仕事を熟す代わりに血も与える。

幾ら何でも無防備というもの。

その内本当に寝首掻かれるんじゃないか。




『じゃあ、こうしよう。俺が飢えに負けて政宗を危険な目に合わせたら、この首、くれてやる』

「……二言は無ぇな」

『当たり前』

「おい、小十郎」

「政宗様、お言葉ですが、何かあってからでは…」

「コイツは俺が斬るって言っただろ」




あ、そこに戻るの?
 

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