椿の花

□第一香
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十四年前、正確には今年で十五になる年、俺はこの家の長男として生まれた。




〈第一香 椿、香る。〉




「リクト様、朝ですよ。起きて下さい」




部屋の戸を開けて入って来たのは首が浮いている男、首無。

小学校に上がった頃から本家にいる妖怪達が一日交代で起こしに来てくれるようになった。

今日は首無の日らしい。




自慢じゃないが俺は朝が弱い。

声を掛けられて目を開けるまではいいんだが、それから先に進まない。

ぱしぱしと目を開いたり閉じたりしながらたっぷり十分は布団と仲良くしている。

これで無理矢理起こされると朝の機嫌は急降下するのを皆分かってくれているので、覚醒するまでじっと待っている。




その十分の間、此奴等は暇だろうに俺の観察をするのだ。

何が面白いのかと聞けば、リクトがぼんやりしてるのは朝しかないから貴重なんですと返ってくる。

いや答えになってないしと思わないこともないが、まあ、気にしないことにした。




『………ぉはよ』




漸く自由に瞬きが出来るようになってもぞりと向きを変え、布団に入ったまま首無の方を向く。

半目で見上げると朝から爽やかな笑顔が返ってくる。

今日もイケメンですこと。




「おはようございます。目は覚めましたか?」

『あ゛ー…いや、ぅん、びみょー』

「リクオ様はもう起きていますよ。今日は金曜ですから明日は休みでしょう?」

『…休みのために頑張るわ』




弟のリクオは何が何でも学校に行こうとする真面目ちゃんだが俺は休めるものなら休みたい。

というか面倒。

何だって一度習ったものをもう一回習わなきゃいけないんだ。




そう、俺は一度高校も大学も卒業している。

正確にはこの世界で、ではなく、前世で。

俺はこの世界にトリップしたのだ。

まあ有りがちな理由だから好きに想像してくれ。

大事なのは前世が女だったってこと。

吃驚するだろ、気が付いたら男に生まれてたんだから。




やっとのことで布団から這い出て、寝巻から部屋着である着流しに着替える。

制服はご飯食ってから着る派。

汚れるかもしれないだろ。




「では俺は行きますね」

『んー』




まだ少しぼんやりする頭で時間を逆算する。

今は六時半。

顔洗って飯食って着替えても余裕だな。




乱れた布団はそのままに洗面所へ向かう。

暫くは自分でやるからと断っていたが、周りの奴等がさせてくれそうにないのでもう諦めた。

何でそんなに世話焼きたがるんだ。




洗面所に行くと同じように起きてきたらしい親父と出くわした。

え?原作じゃ死んでるだろって?

ちゃーんと阻止しました。

だからこうして生きてるよ、腕やられちゃったけど。

俺としては親父が腕使えなくなったのもやっちまった感があるんだが、当人が気にしてないからいいかと思う。

全く動かせない訳じゃないし、日常生活には問題無いみたいだし。




「おう、おはよう」

『おはよー』

「なんでぇまだ寝ぼけてんなおめー」




朝からイケメンスマイルかましてくる親父殿に頭をぐりぐり撫でられる。

ちくしょー、今に見てろ。

絶対背ぇ追い越してやる。




『朝は無理なんだよ。俺夜行性だから』

「猫みてぇだな」

『生まれ変わるなら猫がいい』




なんて中身のない話をしてご飯を食べに母さんの所へ。

ウチは家族揃って朝ご飯を食べる決まりだ。

誰が言い出したって、じーさんだよ、ご存知ぬらりひょん。




「やぁっと来おったな。寝坊助どもめ」




未だ若々しい我がお祖父サマが俺と親父を見るなりそう言った。




「オレまで寝坊助呼ばわりかい。今日はちゃんと起きただろ」

「今日だけな。ほれ、リクトもはよ座らんか」

『おー』




じいさんに返事をして欠伸を一つ。

俺はリクオの隣に座った。




ちなみにじいさんの肝は取られてません。

過去に行って狐の尻尾切ったんで。

どうやって過去に行ったかは、設定を読んでね。




うんうん、この世界に来たらやりたかったこと二つも成功してんだから俺って凄ぇ。

原作始まったらまだやりたいことあるから好きにやるつもりだけどね。

今は取り敢えず飯食お。




『いただきまーす』
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