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□素直な君が好きだから
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『私がエレンの目になろう』
『エレンは私と一緒にいないと早死にする』
いつもエレンの傍で、凛としてかっこいいミカサ。
そんなミカサを黙って見つめるのは、紛れもない私の好きな人で。
私もミカサみたいにしたらジャンは私を好きになってくれるのかな…
そんな考えが頭を過り、食堂に向かう同期の中に彼を見つけて呼び止めてしまった。
「ジ、ジャン!」
「あ?」
「わ、私がジャンの、め…めっ、言えないー!!!」
急に大声を上げて逃げ出すサラミの後ろ姿を怪訝そうに見つめるジャン。
その隣では、何かに気づいたマルコが微笑んでいる。
「なんだよあいつ…」
「ふふ、可愛いじゃないか」
「なんで笑ってんだマルコ!なんか解ったのか?」
「…これは僕の口から言うことじゃないと思うな。
別にジャンにとって悪いことではないと思うよ」
「何だよそれ…訳わかんねぇ」
「そのうちわかるよ、きっと」
微笑んで歩き出したマルコの背中を追うようにジャンも歩き出した。
夕食時、俺の前に座ったサラミが、静かに俺を呼ぶ。
「…ジャン」
「なんだよ」
「…ジャンは、私と一緒にいないと早死にする」
何かと思えばどこかで聞いたことのある台詞で。
俺は何だか馬鹿にされたような気がして、つい声を荒らげてしまった。こうなれば、怒りの感情は止められない。自然と言い合いへ発展していく。
「ハァ?!?!サラミお前俺に喧嘩売ってんだろ!」
「っ、喧嘩なんて売ってない!せっかく同じように言えたのにどうして喜んでくれないのよ!ジャンの馬鹿!」
「なんだと?!お前みたいなアホに言われたくないな!」
だんだんとヒートアップしていく俺たちのやり取りに自然と周りの注目も集まるが、そんなのお構い無しにまだ言い合いは続いている。
「あーもう!結局何が言いたいんだよ!!」
「ジャンが!ミカサを好きだから、だから!私もミカサみたいにしたら、私の事好きになってくれるかなって…思って……」
言いながらハッとして真っ赤になるサラミ。
彼女の告白紛いの発言に周りがザワザワと喚き出す。
「なっ…おま、ちょっと来い!」
「ジャン…あの、ミカサの前で、ごめんなさ」
「いーから来い!」
泣きそうな顔で…いや、半分泣きかけて謝るサラミの手を引いて、食堂を後にする。
周りからの冷やかす声に俯くサラミにいたたまれなくなって冷やかしの声を一蹴する。
「うるせぇ!関係ないやつは黙ってろ!」
「…ジャン、」
その瞬間、ギュッと握られた手に胸が高鳴ったのには、気づかないフリだ。
ーーーガチャ
連れてきたのは、この時間だと誰もいない広間。
繋いでいた手を離すと、小さな声でサラミが俺を呼んだ。
「…ジャン…あの、あのね」
「サラミ…お前さ、俺の好きな奴…ミカサだと思ってんのか?」
「だって、いつも目で追ってる…」
サラミの瞳が悲しげに揺れるのが見えて、思わず抱き寄せた。
「っ…ジャン、どうし」
"どうしたの"って言いかけたその唇に、そっとキスを落としてやる。
「……俺の好きな奴、ミカサじゃないぜ」
「そんな訳、ない…見てたらわかるもん!
ずっと、ずっとジャンのこと見てたきたんだもん!」
恥ずかしい台詞をサラリと言ってのけたコイツは自覚はあるのだろうか。
「…嘘じゃねぇよ。
まぁ、ミカサのこと見てたのは事実だ。
けどそれは、お前がミカサをよく見てたから…俺はその視線の先を辿ったまでだ」
「…それってどういう、」
「俺の好きな奴は、サラミだ」
「っ、ほんとに、本当に??」
キュッと俺の服の袖を掴んで俺を見上げる。
その仕草すら俺には愛しく見えてること、頼むから気づいてくれ。
「俺も…お前が俺を見てくれたらって、思ってた…」
「ジャン…好き!
ずっと、ずっとこうするのを夢見てた」
俺に飛びつくサラミを強く、ただ強く抱き締めた。
素直な君が好きだから
( ミカサみたいになんて、しないでくれ )
( もう、ミカサの真似はしないもん! )
。