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□これが全て
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「…て…起きてください、サラミ!」



「ん…サシャ…?」






眠たい目を無理に開かせると
目の前いっぱいに映るサシャが目をキラキラさせていた。


ご飯の時間には、まだ早い。




「…サシャ、近い…1回退いて」



「あああ、すみません!私としたことが」




わたわたと慌てて退けるサシャに
何事か、と聞いてみれば





「ご飯!朝ご飯の時間ですっ」




そう言うと、ぐいぐいと私の腕を引っ張る。





「ま、待って!待ってサシャ!私着替えてないし、それに…まだ早いよ!」





「サラミ、早くしてください。
今日は対人格闘技ですから食べる時間がいつもより」「、あ…!!!」





サシャの言葉を遮って、頭を抱えた。


対人格闘技…ということはペアが要る訳で
勿論相手なんて決まっていない。





「サ、シャ…誰と組むの?」




サシャの相手がまだ、決まっていなければ良いな…そんな淡い期待は
ニコリと笑うサシャに、すぐに消え去る。





「私は今日はコニーとです!」




美味しそうにパンを頬張る彼女に、
そっとため息を吐いた。




「どうしよう…エレン、アルミン!おはよ」




「サラミ、おはよう」



「あれ、早いなサラミ!」





ご飯を食べに来たエレンとアルミンが横を通りかかる。
チャンスだとばかりに聞いてみる事にする。




「エレン!アルミン!
今日の対人格闘技誰と組むの?」




「俺は今日はライナーだぜ」




撃沈。





「…アルミンは…?」



「僕は、マルコだよ」







あああ、なんて叫んで項垂れる私に、
二人がキョトンとする。




「サラミ、相手がいないの?」





アルミンの問い掛けに何度も頷く。
ああもう、私のバカ!何で忘れていたの。




「ベルトルトまだ相手いなかったはずだぞ」




エレンが思い出したように言う。





「「ベルトルト…」」





落胆する私とは逆に、ニヤリと笑うサシャ。
その様子に、訳がわからないといった顔をするアルミンとエレンを放って
サシャが私の方を見る。




「サラミ、ベルトルトですよ ベルトルト!」



「サシャ、やめて本当にやめて」




話した事なんて、ほんの数回しかないけれど
つい、目で追いかけてしまう相手、それがベルトルト。所詮、私の片想いだけれど。



「サラミ、そうと決まれば早く誘いましょう!ベルトルトを」




「ああ、もう…」





サシャの言葉に段々と赤くなる私の頬に
アルミンとエレンが気付いたのか
なるほど、なんて笑っている。






「よお、お前ら早いな」


「…おはよう。」




ご飯を食べに来たであろう ライナー。
その後ろからベルトルトがそっと顔を出す。




「お、ライナー!ベルトルトも」



「おはよう」



「おはようございます!」




「っ、は…」




いきなりの登場に、思考がついていけず

おはよう、を何とか絞り出そうとするも
それは声にはならず、掠れた空気となって喉から出ていく。



そんな私を、チラリと皆が見る。





「サラミちゃん…だ、大丈夫?」




ベルトルトが心配そうに、私に近付く。
ああ、その眉を下げた困った顔が好き。
決して他の人には向けない、心を許すライナーにだけ笑って見せるあの笑顔も、好き。




そんなことを考えているうちに、
周りにはエレンもアルミンも、
ライナーまでいなくなっていて


私の前で不安そうに首を傾げるベルトルトと
サシャが隣で私のパンまで頬張っているだけになっていた。




「っ…、うん、全然平気!」


「サラミ、私、先に行っちゃいますね!」




珍しく気を効かせたらしく、スッと立ち上がって食器を下げに行くサシャに
咄嗟に手を伸ばすも、彼女はまた後で!
なんて笑って逃げてしまった。


「サ、サシャ…まっ…て」




「サラミちゃん、隣…いいかな」



「えっ、はい…」



首がもげそうな位、ブンブンと縦に振ると




「ふふ…首、もげちゃうよ。
ここは、人間だって急所なんだから」




ベルトルトが、私の前で初めて笑った。
あの、あのベルトルトが私に笑ってくれた。

嬉しくてどうしようもなくて、
スープを運ぶ手が止まる。





「そうだ…サラミちゃん。
今日の対人格闘技、僕と組まない?」



「わ、わた…し?」



「うん。君と、組みたいんだ」



「…っ、喜んで」



よろしくね、とベルトルトが微笑んだ。

私だけに向けられたその微笑みを
忘れないように、確りと目に焼き付けた。


ああ、今日は幸せだ。
そんなことを思いながら、味のわからなくなった残りのスープをさっさと流し込んだ。




これが全て


(( 積極性に欠けると言われる
彼の計画だなんて、私は知らない ))


( あの…次も僕とだったら、嫌かな? )

( 嫌じゃ…ないですっ )


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