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□浮かぶのは
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まだ、訓練兵だった頃の 夕食時
「なぁ、サラミ?」
「ジャン…なに?」
「…何で、アイツなんだ?」
正面に腰かけたジャンがチラリとベルトルトを見た後、不思議そうに私に問いかける。
「うーん…そうだなぁ。
…ジャンには、わからないかもね」
そう言って笑って見せる私に、ジャンが怪訝そうな顔を向けた。
「……そうかよ。」
「強いて言うなら…いつも頼りないくせに、
いざって時に、頼りになるところ、かな」
「……は?そうか?」
首を傾げるジャンの頭を叩くと
"っ、何でだよ!" なんて怒りだすのを、私は笑って見ていた。
「…サラミちゃん」
優しい声で、ベルトルトが私を呼ぶ。
近くに寄ると、気の抜けた笑顔を私へ向ける。
" 好きだなぁ "
そんなことを考えながら、ただ彼を見ていた。
―――それはもう、随分前の、記憶で。
私の目の前には、
いつからか、敵になっていたベルトルト。
四肢を奪われ、懇願するように見つめる、愛しい人。
"巨人は…彼は、人類の敵"
解りきったことなのに…
"彼を殺して欲しくはない"と、心が叫ぶ。
「…ベル…っ、!」
「…サラミ、ちゃん…っ」
巨人化したアルミンが、ベルトルトを軽々と拾い上げる。
「っ…ベル、トルト!
やめ、て…アルミン、やめて…お願いっ…」
助けてと叫ぶ彼に、思わず手を伸ばす私を
ジャンが、ただ苦しそうに、見ていた。
「あぁああぁああぁあぁ!
アニ!ライナー!!
サラミ…っっ!!!」
「っ…ぁ…、」
ベルトルトが、私の名前を呼んだ後、
"パキ"という、骨の音が嫌に大きく響いた。
皆がアルミンに向かって走り出すけれど
呆気なく、儚い彼の最期に、
どうすることもできない虚無感に、
私は、ただ立ち尽くすしか できなかった。
浮かぶのは
(( 彼と、初めて逢った日のこと ))
( "初めまして" とライナーの隣で
ただ優しく笑っていた、彼 )
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