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□他には何も
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会議後、部屋を出ていこうとするハンジを呼び止める。






「…ハンジ、少しいいかい?」 




振り向いたハンジが、楽しそうに笑った。




「珍しいな、エルヴィン。
私に相談事かい?」






「相談というか…そうだな」




「なに?今回の作戦の事?それとも、」
 




「ハンジ。私にもしもの事があったら…
これをサラミに渡してくれないか?」






「は?」







驚いた様な、なんとも言えない表情を私に向ける。








「もしも、があったらでいいんだ…頼むよ」





ハンジに、そっと手紙を押し付けて後にした。





―――――――




あいつに手紙を渡したのは、いつだっただろうか。



今回がきっと、その"もしも"になるのだろう。




そんなことを考えながら馬を走らせ、後ろに新兵を引き連れていく。




どうしてか、私の体は震えていた。


調査兵団に心臓を捧げ、
死んでいった者のために出来ることをする
それで死ねるなら、本望なはずだ。




それなら、何故…


"エルヴィン団長!
必ず…生きて会いましょうねっ"



そう言って微笑んだ彼女を
一人残していくことが、恐いんだと気づく。


私が馬から落ちたのは、一瞬の出来事で…
頭が、焼けるように熱い。



やがてやって来たのは、妙に穏やかな時間。


"これが、死というものか"


意識が朦朧とするなか、私が最後に思い浮かべたのは
心臓を捧げた調査兵団の旗ではなく、

嬉しそうに私を見ていた、いつかの彼女の顔だった。








―――――――――――――










「エルヴィン、だんちょ…」



「………」




横たわる彼の頬に、そっと手を添えると
ハンジさんの手が私の肩に置かれる。



「……サラミ…エルヴィンは、もう、」






「だけど、まだ…暖かい…っ」


「…エルヴィンはたった今、息を引き取ったところだ」



そう小さく呟く兵長の言葉に、
彼の最期に間に合わなかった悔しさを噛み締める。




「エルヴィンっ…生きて、会おうねって…っ…ぅ」



「…サラミ、私たちはあっちにいるよ。

…あとこれ、エルヴィンから」




気を使ってくれたハンジさんが
他の人たちにその場を離れる様に指示する。






渡された手紙をそっと受けとる。



「っ…ありがとう、ございます…」



「…エルヴィンは…キミを残してくことを、悔やんでいたよ」





「…っ、く…ぅっ」








【『 私の可愛いサラミ。

この手紙を読んでいると言うことは
私はもう、キミの傍にはいないと言うことだな。


まず、独り残していくことを許してほしい。



私は、サラミだけを愛していた。
目を閉じればすぐ、傍にいると感じる位には
サラミの事ばかり考えているんだ。


出来るならば、お前をこの腕に抱き締めて、直接伝えたかったが…
そうもいかないみたいだな。


私がいない夜も、独りで泣かないでほしい。
後を追うだなんて、そんなバカなこともやめるんだぞ。


目を閉じれば、私は傍にいるだろう?
お前は強い。それでいて脆い、
だからあまり、無理はするんじゃないぞ。
残していくには、心配なことが多いな



サラミ、忘れるな。
この先何があっても、私はお前の味方だ。

私がいなくても、強く生きろ



どうか…この言葉がお前の心に、
少しでも安らぎを与えられたら と願っている。


…愛している、サラミ


調査兵団団長 エルヴィン・スミス 』】






「っ、こんなの…いつ、書いたの…っ?
…自分ばっかり、伝えるなんて、ずるい!」






彼の肩を叩いても、何も反応は無く、
亡くなったんだ、と嫌でも思い知らされる


だけどまだ、信じられなくて。




"さよなら"も言えないままに

穏やかに眠る彼に、そっと、キスを落とした。











他には何も



(( なにも望まないから、彼を、還して… ))



( ただ、貴方と共にありたいと乞い願う )



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