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□幼馴染み
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私の好きな人は私の幼馴染み。




夕食時、空き始めた食堂で

幼馴染みのジャンが隣に静かに腰かける。




「…よーサラミ。おつかれ」


「ジャン! おつかれー」




彼を好きだと意識しはじめてから

一緒にいるのが少し、気まずくなる。



そんな私の気持ちなど知る筈のないジャンは




「何考えてんだ? 変な顔だな」



そんな台詞と共に、笑って私の頬を摘まむ。



その笑顔が、愛おしい。




「…ね、ジャンってさ、

その…好きな人とかいないの?」



私の質問に、ピクリと眉を動かし


何事もなかったように静かに答えた。





「…いるぜ」




あぁ、私のバカ。


聞かなくてもいいことを聞いて、勝手にショックを受けて




「……そ、うなんだ!」


「あぁ。」




ジャンはこちらを見ようともせず、


パンを口に頬張る。





「…じゃあさ、私が応援してあげよっか」





そんなつもりは更々無い。


ただの強がりだ。





「いらねぇよ」



チラリと此方を見て、呆れたように息を吐く。





「じゃあ、好きな人誰か教えて…」



「関係ないだろ」




ジャンが私から顔を背ける。





特別知りたい訳では無かったけれど


こうも冷たくされるとは思ってもなかった。




゙ もしかしたら、嫌われてるのかもしれない ゙



そんな不安が、胸を支配していく。






「なんで…」




゙何でそんなに、冷たいの゙


言葉にはならず、涙が頬を伝っていく。





「なんで教えなきゃいけないんだよ」






此方を見向きもしないジャンが、


苛立ったように答える。










「……もう、いい。」





ジャンから顔を背け、立ち上がる。





「…おい、サラミ」



少し、弱い声で私を呼ぶ。




「なに、」




チラリと、彼の方へ目を向ければ

慌てたように立ち上がる。





「は? おま、何で泣いてんだよ!」



「…ジャン」



「な、なんだよ」




不安そうに、私を見るジャンに




「……大嫌い」





ただ一言そう告げて、食器を下げに行く







―――― つもりだった。





カシャン、と

音をたてて落ちた食器を拾う暇もなく


何かに腕を引かれ、抱き締められる。






「ちょ、…」




ふわりと、大好きな香りが鼻につく


それで、気づく。



この腕は、ジャンのものだと。







「ふ……、ざけんなよ」




苛立った様子のジャンが、口を開く。



抱き締め返すことも、何かを言うことも出来ず

ただ、ジャンの腕のなか。




「大嫌いって、何だよ…くそ、」



「じ、ジャン……?」





大嫌い、そう口にした事を怒っているらしい。




彼の怒るところがわからなくて、


戸惑う私を、彼が懇願するように見つめる。







「取り消して、くれよ」




「取り、消す…?」





意味がわかっていない私を見て、


ジャンが声を荒げる。




「あー、くそっ!

サラミが好きだっつってんだよ」




「…え…」

「あ…」




しまった、とでも言いそうな顔をする彼に

思わず笑ってしまった。





「お前…なに、笑ってんだよ」




眉間にシワを寄せるジャンが愛おしくて

今度は、私から抱き締める。




「大嫌いなんて、思ってない」


「は?」



キョトンとする彼に、背伸びしてキスをした。



「ジャンが、好き」


「っ、」




大事な幼馴染みが、真っ赤な顔を隠した。




幼馴染み


(( 小さな頃から、両想い ))


( 大好き、の聞き間違いじゃない? )

( ふざけんな、絶対大嫌いって言ったじゃねえか )



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