幻想水滸伝

□・罪には罰を
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 もう止められない。






 罪には罰を





 窓のない暗い室内に嬌声と水音が響く。ロウソクの揺らめく明かりに照らされて、ベッドの上で痴態を晒す白い素肌が浮かび上がる。
 すらりと伸びる細い手足。少し痩せすぎに思える細い体、その胸でつんっと立ち上がったピンク色の乳首。赤く上気して快感に歪む整った美しい顔。
「あ、あ……ッ!」
 その口から流れ出る嬌声はまだ声変わり前で、まるで少女のようだ。
 シーツを掴み、逃げるように身をよじろうとする少年の体を押さえ付け、最奥まで一気に突き上げる。
「……ンンッ!!」
 ビクリと体が震えて、少年は背中を弓なりにしならせる。苦痛に耐えるように眉根が寄せられ、目尻から涙が流れて行くと自分の中の加虐心が首を擡げ出すのだ。
 たまらず細い腰を爪痕が残るほど強く引き寄せ、自らの欲望を満たすべく何度も何度も穿ち突き上げる。
「ひ、あ……あぁッ!」
 少年はボロボロと涙を零し、悲鳴のような喘ぎ声を上げる。それがより一層、俺を欲情させるとも知らずに。
 だから少年の弱い部分を狙って刺激してやるのだ。もう数え切れないほど犯した体だ、どこをどう攻めたら、どんな声で鳴くのかなど全て把握している。
「は……あっ、あっ、んっ」
 弱いところを優しく突いてやると、嬌声にも表情にも艶が出だす。潤んだ瞳はトロリと熱に浮かされ、開いたままの唇からは涎と甘い喘ぎ声が流れ出る。
 望まない行為を強要しているというのに、少年の体の中心では勃起した性器の先から先走りの蜜が溢れ出ている。
「あ――も、イッ!」
 そろそろ限界が近いのか、少年は荒い息を吐き出しながら自分の体を拘束する男の腕に爪を立てる。
 その様子が可愛くて、愛しくて。気持ち良くさせてやりたいと思う一方で、少年の意思を無視して激しく突き上げてしまう自分がいる。
「や――ッ!」
 グチュグチュと卑猥な音を立てながら抽挿を繰り返しこね回し、ただ自らの性を限界まで高め上げ、そして少年の最奥で解放させる。
「――ッ!!」
 内壁を打つ熱い迸りに、少年の体がビクリッと震えた。
 何度目かの腸内への射精に、逆流した精液が結合部から溢れ出し、少年の肌を汚した。それを視界に捉えると先ほど解放したばかりの熱がまた疼き出す。
 少年を凌辱し汚すことで、より興奮が沸き立つ。脳が痺れて理性が失われてしまい、もう自分では止められないのだ。
 少年の中から自身を引き抜き、少年の体を俯せにさせる。何度も見ているというのに少年の背中のラインに魅了される。
 細い首筋に唇を落とし、痕を残す。だが、それだけでは自分の中の独占欲が満たされることがなく、歯を立ててその肩口に噛み付いた。
 そして、そのまま突き上げる。同時に襲ってきた二つの衝撃に、少年の口から悲鳴が上がる。
 すまない、そう思いながらも止められない。軽く血の滲んだ歯型の痕に舌を這わせる。
 愛しくて愛しくて。
 こんなの間違っている。わかっていても、こうしていないと満たされないのだ。
「カイリ……」
 名を呼び、そしてまた何度も少年を貫く。
 上がる嬌声が、淫猥な水音が、苦痛に歪む顔が、駆け上がってくる快感が、満たされる独占欲が、罪の意識を凌駕する。


 もう止められない。












 初めてカイリを抱いたのは、もう数年前になる。まだ入団したばかりの頃だったか。

 入団前からフィンガーフート伯の元で小間使い扱いをされている孤児だと聞かされていたため、多少は他の団員より目をかけてやろうと思っていた。
 恐らくフィンガーフートの屋敷でも辛い扱いを受けていただろうし、その息子のスノウもとんだバカ息子だ。きっと身も心も擦り減ってしまっているだろう。
 その屋敷から離れ、海上騎士団の館で暮らすようになるとはいえ、フィンガーフートと縁が切れるわけではない。だから、この館で暮らす間は息子のように接して、可愛がって上げようと思っていた。

 だが、カイリを見てしまったその時から俺の思いは歪んでしまった。

 確かに他の誰より優しく接してはいただろう。
 カイリは良い子だった。素直で従順で、フィンガーフートの屋敷で酷い仕打ちを受けていたとは思えないほど快活で明るくて、なにより周りの人間を引き付ける何かを持っていた。
 俺も最初はそれに引き付けられたのだろうと錯覚し、思い込もうとしていた。可愛い子だと目にかけた。
 しかし――俺の思いはいつしか狂い、あの子を息子と思うどころか、俺はあの子に欲情していた。
 訓練後に赤く上気した肌を見るたび、その唇が目の前で開かれるたび、堪え難いほどの興奮を体に覚え、犯し尽くしてしまいたい欲求に駆られた。

 そんな生殺しのような日が数週間続き、とうとう欲望は爆発した。

 何がきっかけだったかは覚えていない。ただ、あの日は理性を失うほど酒に飲まれていた。自室で泥酔した俺は、階下のカイリの部屋へと向かい、暴れるあの子を無理矢理押さえ付け、強姦した。
 それ以来、俺は毎晩のようにカイリを犯した。
 頭では罪であると理解出来ていても、あの子の白い肌が、細い手足が、涙を零す青い大きな瞳が、苦痛と快楽に歪む顔が、俺を狂わせるのだ。
 可愛がって上げたいのに、優しくしてやりたいのに、思いとは裏腹にあの子の体と心に爪痕ばかりを残してしまう。
 今日もそうだ。昼間は普段通りに接することが出来るのに、夜を迎えると堪え難い肉欲に蝕まれ、理性を失い、俺はカイリを犯すのだ。
 こうしていないと満たされない。こうしていないと、カイリがどこかへ行ってしまいそうで。
 嫌われても疎まれても、それでもカイリが欲しくて堪らない。

 欲は鎮まるどころかエスカレートする。その内、カイリを壊してしまうのではないかと恐怖に怯えながらも、俺は俺を止められないのだ。
 あの子を目の前にすると、その体に触れたくて気が触れる。


 もしかしたら、俺は待っているのかも知れない。いつか、自らに罰が下ることを――








 ――ズキンッ。
 左手に宿った黒い紋章が痛みを発する。背筋を貫かれるような、その痛みで我に返った俺の腕の中ではカイリが意識を手放していた。
 白い体を白濁で汚し、弾け飛んだ欲望が汚れたシーツにシミを重ねている。シーツを取り替える余裕もないのだろう、使い晒したシーツには前回か前々回の性交の後が色濃く残されている。
 シーツの上に投げ出された肢体は、それでも誘惑的だ。視界に捉えてしまうとまた黒い欲望が沸いて来る。
 ――ズキンッ。
 またもや紋章が痛みを発する。まるで暴走する俺を引き止めるように、嘲笑うように。
 左手に視線を落とすと、渦を巻くような黒い紋章から不気味な光が溢れ出す。

 ――どれだけお前は罪を深めるのか――

 笑うような声が脳内に響く。
 この紋章が何なのかは知らない。だが、この紋章は俺を選んだのだろう。
 そうだとでも言わんばかりに紋章の宿った手の甲から肩にかけて、貫かれるような激しい痛みが走り思わず声が漏れた。
「……ぐうっ!」
 罪を深めれば深めるほど、紋章の黒い光は強さと濃さを増してゆく。自らの意志を強めて、俺の意識を喰らおうとする。
 罪には罰を、与えるために。

「……だん、ちょう……?」
 漏らした呻きに目を覚ましたのか、カイリが気怠そうに身を起こした。未だ涙で得るんだ目の回りは腫れて、疲労が色濃く見える。
 カイリは重い体を引きずりながら、俺に身を寄せた。肩に頭を凭れ、長い睫毛に彩られた瞳を閉じる。
「団長……」
 そして、譫言のように俺を呼ぶ。
 愛しくて愛しくて、抱き寄せてしまいたい気持ちと、愕然とする自分がいる。
 嫌われているだろうと、疎まれているだろうと。この子になら殺されても良いと覚悟していたのに無理矢理、身体を強要している俺に身を寄せてくるなどと、思ってもみなかった。
「……だんちょ」
 また呟いて、カイリは寝息を立て始めた。無防備に身を預けて。

 その髪を優しく撫でる。
 こんな罪深い俺を、受け入れてはいけない。許してはいけない。それではカイリを不幸にしてしまう。止めようのない欲望に負けて、いつかカイリを壊してしまうかも知れない。
 それだけは避けなくてはならない。

 カイリの体をベッドに横たえ、部屋を出る。もう二度とカイリに触れないことを心に誓って。




 これ以上、罪は犯せない。



→続きます


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