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□5 甘いひと時は一瞬に過ぎ
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…そのまま、たわいのないことを話していると、
やがて家の前に着いた。


『私の家、ここです…‼
本当に、ありがとうございました!』

と、なるべく落ち着いて言った。


(あぁ。家着くの早いなぁ…
私の家、学校から遠めのはずなのに… もう、さよならかぁ)


「……吉田さん。
あまり、そういう顔は男の前でしないほうがいいよ。」

と言われ、何のことか分からず
不思議そうに赤司を見ると

“すごく残念って顔してたよ”

と教えてくれて
羞恥で顔が熱くなるのを感じた。

『す、すいません…。なんか、もったいなくて…』

と慌てて言うと


「…また、明日もきみに会いに来てもいいか?」


と、甘い 少し掠れた低い声で
呟かれた。


その声は すみれの
脳裏まで深く響いて 響いて、

(あぁ… また。)

心がギュッと苦しくなるくらいにときめいた。

『も、もちろん。
……あ、でも明日は週1回の
家庭科部の活動があって…』

“少し遅くなるんですけど”

と伝えると
すぐに

「…きみを待っている。」

とはっきり言われて、
また、心臓の音が加速しはじめた。


「じゃあ、また明日」

とこちらを真っ直ぐ
捉えて離さない
赤い光彩を放つ瞳に

『また、明日…』

と返すことしかできなかった。


少し微笑み、
そのまま去っていくあなたの姿を

闇に溶けて見えなくなるまで
私は呆然と眺めていた。
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