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□貴方だけを愛す。
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─とうとう、見送りの日が来た。
少しでも早く着きたかった名無しさんは、駅のホームに待ち合わせ時間の30分前に到着する。


(不安だよ… 赤司くん。
いっそ、振ってくれれば…)


そう思いながら、駅のベンチに座っていた。








…名無しさんには、2年の時、オレから告白した。


君はクラスでも大人しい方で、
あまり、目立たない子だった。
だが、隣の席になったとき、オレは“なんて可愛らしいんだ”と、どんどん君に惹かれていった。


くるくる変わる表情、
素直で優しい心、
ちょっと抜けていて、
女の子らしいところも沢山あって…


いつの間にか、好きになっていた。



両想いになり 付き合ってからも、
“幸せってこういう事なのだろう”と
思える日々を共に過ごせた。


そんな君と高校が離れてしまうのは
やはり、寂しいし悲しい。


だが、君の事を愛する気持ちは
絶対になくならない。

不安にさせる事が沢山あるだろうけど、

…オレは必ず、君に会いに行く。



(だから最後は君の笑顔が見たい)



そう思い、駅のホームへと向かった。






10分ほどすると、
赤司くんの姿がホームに見えた。

『赤司くん…!』


ここにいるのが分かるように、
大きく手を振る。
気付いたのか、こちらに向かって来た。


「名無しさん、来てくれて有難う。
…少し、話さないか?」


そう優しく言われて、
こくりと頷く。


(別れよう って言われるのかな。
辛いけど、それで良いのかも知れない)


そう思って、赤司の言葉を待つ。


「離れ離れになって、名無しさんに、凄く迷惑かけてしまうし、
不安にさせてしまうと思う。

…でも、オレは君の事を愛してる。
絶対に、君を忘れたりなんかしない。

不安になったら、電話でもメールでも
何でもしよう。
会いたいときは、言おう。


必ず会いに来るから…」


…目に涙が溢れてくる。

貴方は、決してあたしに別れを告げるわけでは無かった。

会いに来てくれると言ってくれた。
あたしだけを愛してると言ってくれた。


(なら、あたしは貴方を信じて待つだけだ。)


…そう思うと、心が軽くなった。


赤司くんがあたしの頭をぽんぽんと撫でて、優しく肩を引き寄せる。

無言だったけど、近くにいるだけで、お互いの気持ちが伝わった。


…やがて、出発を知らせる放送がなる。

「では、名無しさん…
行ってくるよ。」

『いってらっしゃい…!』


笑って見送ろうと思っていたのだが、
やはり涙は流れてくる。

すると、急に何かに引っ張られた。
…目の前が真っ暗になる。
赤司の腕の中だ。
赤司の吐息が、耳にかかる。


“最後は、笑ってて。”


そう言われゆっくりと腕が離される。
顔を上げると、深く口付けをされた。

…しょっぱい涙の味がした。


いきなりの事で驚いていると、
悪戯が成功した子供のように笑う赤司に思わず笑みがこぼれる。


新幹線へと乗り込んでいく後ろ姿。


─もう、不安はない。


ドアが閉まり、笑顔で手を降って見送る。

少しずつ動き出す新幹線に
付いていくと、

口パクで“愛してる”と言われた。
驚いて、その場にへたりこむと、
新幹線は既に遠くに行ってしまっていた。



(やっぱり貴方は最後まで格好いい)
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