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□3 頭に思い浮かぶのは
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…入学してバスケ部に入った頃から、ずっと気になっていた。


体育館から見える図書室に
ほぼ毎日のようにいる
きみのことが。

本がよほど好きなのか、いつも大切そうに本を扱っていて、
読書しているときは
きみは感情が顔に出てしまうタイプなのだろう。
表情がくるくる変化して
見ていて飽きなかった。


そんなある日。
いつものように ふと きみを見てみると

きみはオレンジに染まった空を
どこか、愛しそうに眺めていた。

儚げで、まるで……
ここから消えてしまいそうなきみに、

僕は、目が離せなかった。


ピーッという合図で
監督からの集合がかかると、
すぐに我に返って、指示された
練習メニューをこなそうとした。

…けれど、頭の中には
あのきみの姿がずっと思い浮かんでいて。

あまり、練習に身が入らなかった。

あの後、
“あぁ、僕は彼女のことが好きなのだ”
と気づくのには時間はかからなかった。

“好き”という言葉は
僕の心にすっと溶け込んで。

今まで彼女の事が
気になっていたことに
納得がいった。


…あれから、どのくらいの月日が経ったのだろう。

きみのことは 図書室から見える姿の上履きの色を見る限り、
同学年だということ以外、
知らないままだった。

監督とのミーティングで
すっかり帰りが遅くなった僕は
急いで家に帰ろうとすると、
もうすぐ8時を過ぎるというのに
図書室にはまだ明かりがついていた。

(もしかして、)

足早に図書室へ向かうと、
思ったとおり
きみの姿があった。

心臓が脈打つのが分かったが、
落ち着いてきみに話しかけると
きみは目を丸くして驚いた。

なぜかきみは僕の名前を知っていて。
その事実にどうしようもなく
嬉しくなった。
思わず名前を尋ねると

『吉田 すみれです…‼』

と、柔らかく、少し照れたように
笑うきみに

“また、ここに来る”

と告げた。


いきなり、こんなことを言われて
きみはどう思ったのだろうか。

僕は ふっと 目を閉じて
微笑しながら
明日のことを思うと
いつもより心が和らぐ
夜を過ごした。

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