short

□貴方だけを愛す。
1ページ/2ページ

─あと少しで 貴方との別れの日がやってくる。

その時には桜が満開に咲いているのだろうか。…出来れば、あたしの想いと共に散って欲しい。







あたしは、今日 この帝光中学校を卒業した。
1ヶ月ほど前、無事に近くの誠凛高校にも合格しており、
普通は舞い上がった気分になっているんだと思う。


…でも、あたしはそんな気分にはなれない。

ザワザワと騒いでいる体育館から離れ、1人、校舎裏にある大きな桜の木へと向かった。


(…まだ、蕾か…)



名無しさんがこんな気分なのは
2年のときから付き合っている、赤司征十郎と離れ離れになってしまうからだ。


赤司くんは、京都にある、洛山高校に進学する。
頭の良さも普通。
裕福な家庭でもないあたしは、
とてもじゃないが、そんな高校に行けなかった。


─あたしはとても不安になった。



頭脳明晰、容姿端麗、運動神経抜群の
赤司くんの事だ。


(向こうでも、物凄くモテるんだろうなあ…)



学生の遠距離が上手くいく筈が無い。
“会いたい”と思っても中々、会うことなど出来ない。
その事実に、…胸が痛くなった。


卒業したというのに涙が溢れてくる。
桜の木に寄りかかって、
そのまま静かに涙を流す。


「…名無しさん?」


背後から愛しい愛しい貴方の声がした。

慌てて涙をハンカチで拭い、
笑顔で振り返る。


『あ、赤司くん…!どうしたの?』

「君を、探していたんだ。
…目が腫れている。泣いていたのか?」

そういって優しく頬を撫でてくれる。


(ほんとに、優しいな…)


『ううん、大丈夫…!卒業して寂しいなーって思っただけ!何で、あたしを探してたの?』

赤司の優しさにまた涙が溢れそうになったが、何とか堪えて微笑んだ。


「そうか… なら、いいんだが…。

ほら、これ。…この間、欲しいって言ってただろう?」

何か、小さなものを握りしめて
あたしに差し出した。

(第2ボタンだ。)

この間、2人で帰ったときにお願いしたのだ。“最後の記念だから”と…


(覚えてて、くれたんだね…)


『…有難う。赤司くん。』

「あぁ…」


そう言うと、赤司がサクラの木を見上げる。

「満開なのを、君と見たかったな…」


暫く見つめ、視線を下ろして
こちらを見る。


あたしが胸がいっぱいになり、我慢していた涙が溢れた。


すると、赤司くんはクスッと笑い、
“おいで”と手を広げたので、
その腕の中に飛び込んだ。
…とても、温かくて心地よい。


(この腕の中に入れるのも、あと少し…)



名無しさんはこの感触を忘れない様に、身体をすり寄せ、強く抱き締め返した。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ