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□甘く熟した、
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お昼休み。
今日は友達が風邪で学校を休んだので、1人寂しく、教室でお弁当を食べていた。

窓から中庭を見ると、たくさんの生徒が思い思いに昼休みを楽しんでいる。


(いいなぁ… )


ボーッと外を見ながら、いつもデザートが入っている箱を開けた。



「 …イチゴ、美味しそうだね」

『う、わぁ…っ⁉』


驚いて後ろを見ると、誰もいなかったはずの教室に、クラスメイトの赤司征十郎がそこにいた。


『あ、赤司くん…、どうしたの? 何か、用事?』

「あぁ、ジャージを取りに来たんだ。 みんなでバスケをしようとしたんだが、持ってくるのを忘れてしまっていてね。」


そう話す赤司は、とても同い年の男子とは思えない程の丁寧な口調で、改めて驚いた。


いままで 赤司と話す機会などなかったので、何を話したらいいか分からず、思わずこんなことを口走った。


『…イチゴ、食べます?』


言った後、自分で自分を恨んだが、もう後戻りできない。
赤司の返答を待つと、意外な答えが返ってきた。


「いいのかい?…では、有り難く頂くよ。」

すると、箱の中から1つ、赤く熟した それ を取ると、
ゆっくりと半分ほど かじった。
…赤司の綺麗な唇が少し開き、
真っ赤なイチゴがジュク と音を立てる。



(う、うわぁ…っ なんか、)


その様子をじっと見てしまい、
なんだかいたたまれない気持ちでいっぱいになる。


「どうしたの、顔が赤いけど。」


にやり、と妖艶に赤司が笑う。
“なにか変なことでも考えてるのか” とまで言われた。

『い、いや… そういうつもりはなくて…っ』


必死で頭を横に振る。
すると、赤司が残り半分となったイチゴを手に取って、こちらを真っ直ぐ見ながら


「…食べる?」


と、低い掠れた声で呟いた。


(え、⁉ 食べる?って… それを? どうやって…っ もしかして、口移し…っ⁉)




パニックになりながら、ゆっくりと顔が近付く赤司に少し期待していると、


「じゃあ… いれるよ。 …口、少し ひらいて。」


と耳元で囁かれ、耐え切れずギュッと目を瞑ると、口の中に大きなイチゴが放り込まれた。

(あ、あれ…? これって)


慌てて目を開くと、そこには楽しそうに笑う赤司がいた。

…どうやら、赤司が食べていたものではなく、箱に入っていた新しいイチゴを食べさせたらしい。

(か、からかわれた…っ)

真っ赤になって、まだ笑ったままの赤司を睨む。

「…僕はきみのイチゴを食べさせただけだけど? なにを、期待していたの?」

『な、何でもありません…っ』


やけくそになりがら、そう言う。


「じゃあ… 僕はそろそろ行くよ」

その一言にホッとしていると、
また 赤司の綺麗な顔がゆっくりと近付いてきた。

(え、えっ…)

逃げられずに、固まっているあたしに、爆弾発言を落とした。


“きみも、赤く熟したイチゴのようだ。… いつか、頂くよ”


そう言い、あたしの頭をそっと撫でると静かに教室を出て行った。

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