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□両片思い
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『あ、かしくんっ!いいよ、重たいし、何より迷惑だろうし…!! 』
「だから、持っているんだろう。
まったく迷惑じゃないから気にするな。」
と、赤司くんがフッと微笑んだ。
(うぅ。周りの視線がいたい…)


───なんでこの状況になっているのかというと、今日日直だった私は運悪く先生につかまってしまい、
「名無しさん。悪いが、この荷物を倉庫まで持って行ってくれ。」
とたのまれ、
ひとりじゃ多すぎるこの荷物をどうやって持っていこうかと悩んでいた私に
クラスメイトであり、
私の想い人でもある、赤司くんが
声をかけてくれたのだった。

「名無しさん。これをどこに運べばいいんだ?」
すっかり押し切られてしまった私は、
小さく“倉庫… ”とだけ答えると、
聞き取れたのか、
“ わかった”とだけ返事がきた。

(あぁ、あの赤司くんに荷物を持たせてしまった… 迷惑かけちゃった。
赤司くんて、ほんと、やさしいな…)

そう考えて、2人で無言のまま倉庫へ向かいながら下をむいていると、
「──すまない。僕と行くのがいやかもしれないが、あと少しで着くから
我慢してくれないか…?」
と、どこか悲しげな表情で言われた。

(赤司くんのこんなかお、初めて見た…)

名無しさんは、そんなつもりはなかったのだが、想いをよせている赤司と
2人きりということがあり、
はずかしくて、声が出ず、何も言えなかった。

やがて倉庫に着き、気まずい空気の中荷物を片付けると、沈黙が訪れた。
(──こうして静かになると、もっと、意識しちゃう。どうしよう…)
2人とも、何も言わずに時間だけが過ぎていく。

名無しさんは、さっきの赤司の言葉に
答えられなかったことに
申し訳なくなり、
自分でもわかるくらい顔があつくなりながら、
『じゃ、じゃあ、ありがとう赤司くん!! ほんとにごめんねっ…!! 』
とだけ早口で言い、
その場から逃げ出した。
「あ、名無しさん…っ」


かけ足で戻るとき、名前を呼ばれた気がして、少し振り返ってみると、
赤司くんが私を
まるで、愛おしいものを見るような瞳でこちらを見ていたのは、

───私の、気のせいだと思う。
 

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