その少女、即ち

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「ふぅ…」


「どうしたの、溜め息なんか吐いちゃって」


指令室に響く吐き出した息の音


広さがそこまで無いこの空間で、ましてや二人しか居ない今そんな些細な音でさえも耳に届いてしまう


名無しさんは溜め息の理由が理由なだけに少し面映ゆそうにしながらコムイに訳を話し出した


「いやなに…私も大浴場に行ってみたいと思っての
自分の我が儘で男の振りをしているというに、何とも烏滸がましい考えさね
今のは聞かなかった事にしてくれぬか?」


ばつが悪そうに微笑む名無しさんに一瞬真顔になったコムイだったが、話の内容を理解するとまるで悪戯小僧のような笑顔を此方に向けガサゴソと机の中を漁り出した


「はい、これ
悩める名無しさん君にこれをあげよう!」


なんだ?と、コムイが取り出した物を受け取ってみるとそれは一枚の掛札で、「清掃中」の文字がでかでかと刻まれていた


何故こんな物が机の中に入っているのか些か不思議ではあったが、この際気にしない事を名無しさんは決め込んだ



「入るなら早朝がオススメだよ
夜中だとまだ入ってる人がいるだろうから
僕自慢の大浴場だから是非名無しさん君も体験しておいで」


悪戯小僧から一転、紳士的な笑みに変わったコムイの眼鏡の奥の瞳に視線をぶつける


毎度毎度こんなくだらない事にも嫌味の一つも言わずに聞き入れてくれるこの男に名無しさんは申し訳なく思う


「…私の我が儘故聞き流してくれて良いというに」


が、科白に反して顔がどんどんにやけていくのが分かった


コムイもその事が分かってか終始ニヤニヤ顔だ


しかし、そんな事も気にならないくらい名無しさんの思考は既に大浴場へと向いていた


日本にいた頃も性別を偽っていた為湯浴みすら中々出来ない様な生活を送っていた名無しさんにとってそれはまさに天からの贈り物


コムイ様々と言わんばかりに手の中のそれを強く握り直し、にやけ顔のままコムイにお礼を言うと軽い足取りで部屋を出たのだった
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