*。小説
□ウサギさんは今日も元気です。2
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「どうぞ、入ってください」
ガチャリと音を立てながら、リビングの扉を開き言われるがままにリビングに入る。するとさっきさくらちゃんが言っていた通り、既に衣梨と聖以外の全員が揃っていた。
「あー、衣梨ちゃん遅いぞ。さっきから里保ちゃんがふくちゃんふくちゃんって騒いでうるさいんだから。」
呆れる様に溜め息を零しながら、香音ちゃんがこちらを見つめている。すると、その背後から現れた里保が、手に持っていたドングリを放り投げ、物凄い勢いでこちらに駆けてくる。お目当ては、衣梨の腕の中にいる聖だろうから、ふくちゃんを降ろせー!と騒がれる前に里保の前にそっと聖を降ろしてやる。
「ふくちゃん!ふくちゃんのにのうでー」
里保は聖の事が大のお気に入りで、こうして皆で集まった時等には、聖と遊びたくて仕方が無いのだ。一方聖はというと…
「や!りほちゃ、きもーい」
「ふくちゃん!?」
かなりの塩対応っぷりを披露していた。聖自身、誰かとベタベタふれあうのが好きな性格だが、里保はそのベタベタの度が過ぎているのか、毎回少し鬱陶しそうにしている。
「ふくちゃん…うちのふくちゃん…」
ガックリと肩を落としつつトボトボと歩き、先程放り投げたドングリを拾いながら、悲しそうな瞳で聖の事を見つめている里保を見ていると、なんだか少し可哀想になって来た。
「聖、里保が可哀想やろ。少しくらい遊んであげてもいいんやない?」
「えー。りほちゃー、みずきのにのうでさわるからやだ」
「聖の方がお姉さんやろ?ほら、里保のドングリ取り上げるくらいなら許すけん、構ってあげーよ」
「やだ」
「聖」
「やだ」
ぷいっとそっぽを向き、頑なに首を縦に振ろうとはしない。そこで衣梨は秘密兵器を取り出した。
「あー、そういう事言っていいと?そんな悪い子には、これあげんけんね。」
鞄から、先程コンビニで購入したカットセロリの袋を取り出し、聖に見せる。聖はこれが大好物なのだ。
「セロリ!えりぽ、セロリちょーだい、セロリ〜」
大好物の登場に、キラキラと瞳を輝かせつつおねだりをする聖を見下ろしながら、衣梨は勝ちを確信していた。
「聖が里保と遊んであげたら今日のおやつはセロリにするっちゃん。」
「わかった!りほちゃ、みずきとあそぼー」
「…!? …ふくちゃん!」
こくこくと何度も頷く聖はどうやら衣梨の作戦にまんまとハマったようで、そのままとてとてと里保の元へ歩み寄った。
「流石は衣梨ちゃん、聖ちゃんの扱いが上手だね〜」
「譜久村さん、ウサギさんなのにニンジンじゃなくてセロリが好きなんですね。」
「はぁ…うちのまーとどぅーにも見習って貰いたいものですね。」
皆が関心するように色々な事を言う中、はるなんは溜め息を零しつつ部屋中を走り回る優樹ちゃんとどぅーを見つめていた。
「どぅー!あゆみんいた?」
「ハルのほうにはいなかった!」
「どぅーのやくたたず!きらい!」
「なんでだよ!?」
「あーゆーみー!まさたちとあそぼー!」
どうやら亜佑美ちゃん狩りが始まっているらしく、優樹ちゃんとどぅーは元気よくパタパタと尻尾を振りながら、部屋中を大捜索しているようだ。
「こら!まーちゃんもどぅーも、あんまりあゆみんを困らせちゃダメだからね!」
飼い主であるはるなんは、叱るような口調でそう言うが、どうやら優樹ちゃんとどぅーの耳には届いていないようだった。
「そういえば石田さん、どこに行ったんでしょう?」
さくらちゃんが少し心配そうにキョロキョロと部屋の中を見渡すが、亜佑美ちゃんの姿はどこにもないようだ。
「どうせ、猫の行く所なんてひとつやろ。おーい、聖!隣の部屋のコタツの中から、亜佑美ちゃんを引っ張り出してこい」
「あゆみちゃ?わかった、みずきいってくる!りほちゃー、いこ〜」
「まって〜、ふくちゃーん…」
パタパタと足音を立てながら、聖と里保は亜佑美ちゃんを探しに隣の部屋に向かっていった。衣梨の予想が正しければ、数十秒後には気持ち良くお昼寝をしている所を、ウサギとリスに捕獲され、そのままリビングに連れて来られた挙句、さっきの元気な双子のわんこ達に連れ回される猫の姿を見る事が出来るだろう。
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