*。小説
□笑えない話 生×譜
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それはある日のこと、いつも通り撮影までの長い待ち時間、衣梨は喉が乾いて飲み物を買いに廊下に出た。
「…っ…どぅー…」
「大人しくしてください、譜久村さん」
「で、も…早くして…どぅー…っ」
とある空き部屋から、聞き慣れた2つの声が衣梨の耳に入る。
「どぅーと聖…?こんな所でなんしよーと…」
興味本位からか、その空き部屋をそっと覗き込んでしまう。そこには、どぅーの服の肩あたりを掴む聖と、そんな聖に顔を近付けるどぅーの姿があった。
「譜久村さんが大人しくしてくださったら、すぐに終わりますから」
「っ…うん…」
いや、意味わからんし…てか、2人は付き合って居ないはずやろ…
「それじゃあいきますよ。」
そんなどぅーの一言を聞き、ぐるぐると色々な感情が衣梨の中を駆け巡る。
聖の唇とどぅーの唇が、もう少しでくっついてしまうのではないかというそんな時___
「聖」
「え、りぽん…?」
衣梨は、聖の腕を引きこちらに抱き寄せていた。
「どぅー、悪いけど聖借りてくから。」
そう言った時には、既に衣梨は止まらなくなっていた。聖の手を強く引きながら、強引に別の空き部屋に押し込み、そのまま聖をソファーに押し倒す。
「えりぽん…?なに、して…」
「衣梨じゃダメ?」
「え?」
「聖のこと、幸せにするの、どぅーやなくて衣梨じゃダメなん?」
「待ってえりぽん、何のはな…」
「もう待てん」
「え…んっ…!」
未だに状況を理解出来ていない聖を相手に、衣梨は自身の唇を強引に聖のそれと重ねる。
「…え…ぃぽ…っ」
呂律が回っていない聖が衣梨の名前を呼ぼうと口を開いた隙に、衣梨は舌を聖の口内に侵入させる。
「ん…っ…はぁ…」
お互いの吐息が混ざり合うなか、聖の口内に舌を這わせていると、先程まで強ばっていた聖の身体は次第に力が抜けていき、もはや無抵抗だ。
「はぁ…みず、きは…なんで抵抗せんの…?」
「はぁ…はぁ…へ?」
間の抜けた声をあげながら、荒い呼吸を整えながら、衣梨を不思議な顔で見上げている。
「聖は、どぅーと付き合ってるんやろ?やのに、なんで衣梨にキスされて抵抗せんのって聞いてるっちゃん」
「待ってえりぽん、何の話…?聖がどぅーと付き合ってるって?」
「は?さっき、どぅーとキスしようとしとったやん」
「してないよ!…あ、もしかしてえりぽん…さっき聖の目にゴミが入っちゃって、どぅーが目薬をさそうとしてくれてた所を見ていたの?」
は?今なんて?目薬?
「いやいやいや、え…つまり衣梨の勘違いやったってこと…?」
「うん、そうなるね?」
「はぁぁ…なんそれ、笑えんし…。つーか、それでも恋人でもない衣梨にキスされて抵抗せんのって、おかしいやろ」
「だって聖…えりぽんのこと、好き…だもん…」
頬を赤らめながら、上目遣い気味に衣梨の事を見上げてくる聖、バリ可愛い…ってそうじゃなか!今、なんて言ったと…?
「聖、衣梨の事好き…なん?いつから…?」
「もうずーっと前からだよ?えりぽん、変な所で鈍感さんだから、いつ気付いてくれるのかなって、聖待ちくたびれちゃった」
そう言って、えへへとはにかむ聖。つまり、ずっと片想いだと思っていたけど、両想いだった。って事?
「それで、えりぽん…聖、えりぽんの返事、聞きたいな。」
ソファーから立ち上がり、衣梨の首に腕を回してぎゅっと抱き着く聖の背中に腕を回してやった。
___そんなん、答えなんて決まってるやろ。