王佐の誓い

□魔界
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 随分と昔、子供の頃に考えていたことを思い出した。
 ――裏を見ることはできるのか。

 大人の背丈より高いところから吊り下げられて、窓を覆っているカーテンを床に寝ころんで見上げていた。翻る大きな布を揺らして、表を見たり裏を見たり。いつもと視点が違うだけで、見えるものは変わる。
 布も紙も壁も、見られるのはひっくり返した裏側だけ。表だったところは裏になって隠れてしまう。隠れた裏を裏側にいる人は見られるけど、表側にいる人は絶対に、見えない。表と表が、表と裏にあるだけで……。
 考えて考えて、ぐるぐる回る。
 カーテンを身体に巻き付けて遊んでみる。小学生のくせに、子供じみた一人遊び。
 カーテンを持ったまま、自分の身体ごと回ってみる。そして巻き付く布に包まれて回転を続けると、布は捻れて一本の太い紐になる。捻れきったカーテンは、今度は反対に回りながら、また元の形に広がっていく。

 ガッシュの外套に包まれて、遠ざかるのは人の世界。抱えた赤い本が光を放つ。
 人間界が彼方になり、魔界が此方となる。見えなかった、裏側の向こうへ。
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