夜の訪れ

□いまさら
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 やさしい王様は、すべての魔界の民を等しく大切に思う。だから友達と、皆と仲良く遊ぶことはできても、そこから誰かを特別に選ぶことはできない。
 ただでさえ千年の王はすべての魔物に取り残されるのに、特別を選ぶなんて悲しくなるに決まっている。

 けれど、ゼオンだけは初めから特別だった。同じ父と母につくられ、同じ時に生まれてきた、たったひとり。
 ガッシュは、その変わりようのないことを言い訳にした。どうしてもゼオンを離したくなかった。家族だからと、触れ合うことの快さに、与えられるものに縋りついた。兄弟だから、双子だからと、ふたりだけだと独り占めにした。

 夜に訪れ、為される事にただ逆らわず、拒まず流され任せて委ねて受け入れて。そうして柔らかく微笑み絡めれば、振りほどかれることは決してなかった。

 きっとゼオンは気づいていた。あの賢い兄が、愚かな弟の心づもりに気が付かないはずがない。それを、ずっと何も言わずに。
『兄弟での戯れなど、仮初めのもの。互いに誰かを見つけるまでの、ほんの一時の慰め事』
 初めから、そう言ってくれたのだ。情を交わしながら、心の有り様など構わずに、ただ快楽だけを。

 営みは伴侶と共にあるものと、父と母を見ればわかることだ。けれどガッシュは伴侶など望めない。想う人とは遠く離れ、空いた虚ろは埋まらない。

 本当は、それが生涯を連れ添う誰かのものと、知りながら掠め取って貪っていた。本来はとても清らかで、穏やかな安らぎを求める兄を。それは淫らに堕ちた弟が手を掛けてよい相手ではない。

 * * *

 何より酷いのは、自分が想う人を見つけたこと。想い人があれば、それを他に向ける事の、知らず犯した罪の重さも。だが、今更。

 立ち尽くし、泣いているガッシュに、ゼオンが静かな声で問う。

「謝るような事をしたのか」
 頷いた。

「許しを請うか」
 勢いよく頭を振る。

「では」
「ゼオンの思うとおりに」
 如何様にも償うと覚悟を込めてガッシュは答える。

 ゼオンの手が、頬に触れた。撫でられ、頭の後ろに手を添えられ、軽く引き寄せられて、抱きしめられた。戸惑っているうち、両手で顔を挟まれ、額に小さく唇がふれて、離れた。
「これで、終いだ」

 悪戯をしにきたからと、満足そうに笑うゼオンのせいで、また涙が出た。しかも、その涙を拭われて、腹立たしくガッシュは駄々を捏ねる子供みたいに叫んだ。

「私達は! おんなじ、だっ」
 だって、兄弟なのだ。双子なのだ。この世で唯一の稀なる存在なのだ。

「ずっと一緒、だったのだ! だから、」
 なかった事にされるなら、せめて願おう。縛り付けていた理由を反転させて、祈りとして。

「ああ。何も、変わらない」
 全部わかっていると言うように、ゼオンが答えた。

「ずっと、これからも。今までも、そうだっただろう?」

 * * *

 終わりが来るのは知っていた。

 心がここにないことも。

 来るかもわからない、いつかのために、ずっと前から、初めから。

 そして最後に。

 まだ涙の残るその頬に、ただの優しい口づけをした。
 
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