夜の訪れ

□これから
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 寝具の隙間から入り込み肌をさす夜気と、内側にこもり身体から発せられる熱と湿り気。

 潜った寝床で腕と脚とを遊ばせていたガッシュは、捕らえるまでもなく身を寄せてくる。だからゼオンは遠慮なくガッシュを組み敷いて、強く首の筋に吸い付いた。
 互い違いに組まれた手から、拮抗する力が伝わってくる。力比べのように握られる掌を、緩めて引いていなしてやると、思わぬところに腰が触れ、こちらの動きが乱された。
 煽られてじゃれつく獣のように甘噛みをして、勢いをかって押さえ込む。押し込まれ、悔しく膝が暴れるのを知らぬ素振りで躱しつつ、手首を取ってまた口付ける。決して上位は取らせない。

 どれだけの事をしても、この寝室より外には出さないと決めている。

 ガッシュの夜の振る舞いは、どこか危うい。
 夜のことと昼のこと、そこで交わされていることの違いはかなり微妙でありすぎて、おそらくガッシュに区別は付いていない。その稚いはずの素振りがなぜか、時にひどく不安になる。
 素肌をさらし、心を露わにする素直さは、好ましいけれど危ういものだ。これから先は無垢なままでは、きっと何かに傷つくことになる。
 それなら。誰にも何にも傷つかないよう、腕に囲って護ろうか。絡めて縛って閉じ込めて。心ごと身体ごと、すべてを夜にしまい込む。

 ただそう決めてしまうと、この寝室の外では、もう頬への口づけも出来なくなる。
 穢れのない子供のように、眼差しを交わして顔を寄せ合い、そっと頬にふれるだけの柔らかい口づけ。兄弟として好ましい、優しく真っ当な接し方。それがゼオンは好きだった。繰り返されて意味を薄れさせていくものが、本当はとても得難くて大事なものだと感じていた。だから、それだけ少し後悔した。

 * * *

 ゼオンが付けた背中の痕は、ガッシュがどんなに首を巡らせても決して見えないところにある。そういう痕のつけ方が、ゼオンの好みだ。
 誰にも知られない、ゼオンだけの所有印。対してガッシュは、お返しとばかりにゼオンの胸に吸い付いた。
 顔を離したその後に、残される痕は赤々と、心の臓の真ん中に確かな存在を主張する。そのわかりやすさにゼオンは笑う。

 これは稚戯。子供の遊び、他愛のない戯れだと、そう偽っていられるのは、いつまでか。

 新しい年を迎えて齢を繰り上げ、さらに季節の進みと合わさるように身体が少しずつ変わっていく。
 触れ合う度に、身体の中に熱が溜まっていくのを知っている。内から湧き上がり高まる兆しは、抑え難くて持て余している。
 成長につれて変わっていくものがあるのは、自然の摂理だ。時を得て殻を破る雛鳥のように、春に萌え出づる若葉のように、それを留めることなど誰にも出来ない。

 もうすぐ自分達の身体は大人のものに変わるとゼオンにはわかっている。それが、これまでのような戯れの意味を否応なく変えてしまうのも。
 だから、変わりゆく春をゼオンは惜しむ。

 * * *

 もう少しだけ、子供のようでいたかった。
 
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