夜の訪れ

□これから
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 巡る季節に、また歳月を重ねていく。

 凍りつく冬の間に、産毛に覆われ雪と氷に耐えた木の芽は、来る春に纏っていた薄い表皮を落として、硬くしなやかに枝を伸ばし、瑞々しく葉を広げていく。

 ――もう子供ではありえない。

 * * *

 私邸の東の端にある私室は、朝の光が白く眩しく差し込んでくる。柔らかな褥で眠りについたはずなのに、ゼオンの目覚めを促したのはいつもと違う肌寒さだった。

 ふと微睡みから覚め、ぼんやりと目蓋を開ける。うつ伏せの顔と身体の下の敷布の他、腕や肩には何も掛かっていないのに気づいて、ため息をついた。
 日が昇れば温かさが増す時季だが朝はまだそれなりに冷える。わかっていて素肌をさらす真似をしたから当然の報いか。大きく皺の寄った敷布に昨夜の行状を思う。

 身体を起こすのが面倒で転がったまま寝台の下に目をやると、思った通り寝衣が丸まって落ちていた。そこを探って下着を引き上げる。身に着けた際に肌を滑った布の冷ややかさが、逆に気持ちを落ち着かせた。

 どうしてこうなったか、といえば同じ寝台に横たわる弟のガッシュのせいだ。

 そいつは要領よく寝具に埋もれ、憎らしいほど穏やかに寝息を立てて眠っている。こういうことがあるから、寝台の上掛けは普段から薄手の物を二つ重ねて使っているのが、半分以上取られている状況だ。一々世話をするのも今更で、呆れるほどに慣れてしまった。

 起こされて、ようやっと上体を起こしたガッシュの背中に日がさして、素肌を眩く輝かせた。ゼオンに劣らず、滑らかで白いガッシュの肌。その感触はよく知っている。
 まだ覚醒しきっていないその身体に後ろからゼオンは優しく寄り添い、曝け出された背の中心に赤く鬱血の痕を残した。

 それは最近覚えた、ふたりだけの遊び。皮膚の柔らかいところに強く吸い付き、痕を残すというだけの。

 行為だけなら接吻と変わらない。だが、擽ったいと身動ぎするのを手で抑え、唇で接するところはどこも柔く感じやすくて、後に残る赤の鮮やかさが気にいった。
 始めてしまえば次々と、あちらこちらに繰り返し、花弁のようにその色をそこにかしこに散らしたくなる。

 * * *

 それで昨夜は少しばかり羽目を外した。

 ガッシュの寝衣に手を差し入れて、ずらした布の端から肌に痕を残す口づけをする。邪魔だな、とはゼオンも感じていた。手を離せばすぐに隠れる痕跡を指先で押さえ、次はどこにしようかと逡巡する。
 そのとき幾度となく付けられた唇が離れるごとに上擦った声を上げていたガッシュが、俄かに身体を捻って起き上がる。それから、むずがる子供の仕草で寝衣の合わせの紐を引き、ゼオンが察するより先にぱっと上衣を脱ぎ捨てて、すっきりしたと言わんばかりに笑いかけた。

 続けて下衣と下着にまとめて手をかけるガッシュはそうしたことに躊躇いを覚えない質ではあるが、ゼオンはどちらかというと肌をさらすのは好まない。傍らの灯りを消すと、ふっと暗闇が寝室を覆う。
 闇のうち素早くゼオンも上衣と下衣とを取り去った。身体を寝具に滑り込ませて、中で下着を下げ落とす。何も身に着けていない、常とは違う心許なさは、柔らかい羽をつめた上掛けと敷布に包まれることで和らいだ。
 
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