「ルーム」シリーズ(長編)

□ワンルーム
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≪Side:勇太≫
◇Day1:「ロコモコ」

ピコン!

会議室に響くLINEの通知音。

いっけね。切るのを忘れてた。

部長が手元の資料に目を落としたまま、咳払いをする。

「スミマセン」

俺は小声で謝ると、上着のポケットに入っていたスマホを取り出し、素早くマナーモードにする。

その時、ちらと見えた画面の通知に思わず胸が高鳴った。

―玄樹からだ。


「LINE 玄樹:『今日の晩ご飯お家で食べるよね?なにがいい?』」


そのまま電源をオフにしスマホをしまう。自分では努めてクールに振るまったハズなのに、隣にいた同期の岸が肘で俺をつつきながら小声で言った。

「おい、神宮寺。顔ニヤケてんぞ」

俺は慌てて咳払いをし、口元をぎゅっと結んだ。

***

「『きょ、う、は、はんばーぐ、が、たべたい、き、ぶ、ん』っと…」

休憩所で缶コーヒーを片手に返事を打っていると、横からぬっと何者かが画面をのぞき込んだ。

岸だ。

「うわ!」
「じーんぐーじー。嫁さんからかー?」

びっくりさせんなよ…ったく。

「そーだけど?つかなんでわかったんだよ」

岸はしたり顔でこちらを見る。

「すぐわかるに決まってんだろ。お前嫁さんから連絡くるともうすんげえニッコーっとしてるもん。ニッコーって」

両手の人差し指をえくぼにあてがい不自然すぎるほど満面の笑みを浮かべる顔になんだか腹が立った。

完全におちょくってやがる。

「そんなニヤケてねえだろ」

「そ・れ・が、してるんだなあ〜ジンちゃん。相変わらずラブラブでいいねえ」

岸と俺は元々同じ大学出身で昔から友達だった。玄樹とも仲が良く、結婚する前はよく3人で遊びに行ったりもしたっけ。

「で、玄樹はどう?元気してる?」

――シャレかよ。昔からこういうしょうもないギャグが好きなやつだ。だからいつも三枚目なんだよ…。

「元気だよ。お陰様で」

「そうかー久々にあの可愛いお顔を拝んでみてえもんだなぁ〜」

カシュと岸が栄養ドリンクのふたをひねる音が響く。

「なんならウチにくる?」

そう言った途端、岸は慌てて大げさなくらい顔の前で手を振った。

「いや、いい!いい!新婚さんの邪魔できねーもん!つーかお前らのイチャイチャ、学生んときでもうお腹いっぱいなの!」

おい岸。後半が本音だろ。
俺がにらむと岸はぷいと目をそらした。

「にしてもハンバーグかあ…いいな。家庭の味って感じで」
「テメエ、しっかり読んでんじゃねーよ」

「ま、俺もセブンさんの手作りハンバーグを今日の夕飯にしますから全然うらやましくないですけどね!」

すねたように唇を尖らせる岸。全然かわいくねえからやめろ。

「そういうのは手作りっていわねーの!」

俺が岸のケツを蹴り上げようとした時だった。

ピコン!


再びLINEの通知がくる。


「玄樹:OK〜楽しみにしててね(ハートマーク)」


…(ハートマーク)!!
テンションが一気にあがる。

――俺の顔を見て岸が再びにやにやしている。しまった。また顔に出てたか。気を付けないと。


…ともかく、今日は早く帰んなきゃだな!
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