銀の空
□参
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「 鈴、お前は望まれる生き方をしてはいけないよ。お前が望む生き方をするんだ」
ーー鈴の手は誰かを守れるよ。お前の望むよう、いつかはそんな生き方が出来るさ。
ーー…別にそんな生き方望んでないっつーの。誰かを背負って歩くなんて重たいだけじゃんか。
松下村塾兼自宅の縁側で松陽と2人並ぶのはいつもの事だった。ふとした瞬間に松陽が鈴に対して道徳やら倫理を説くのもまた日常。
言葉ではあしらっても松陽の心地の良い声は不思議と鈴の心に入り込む。
ふわふわの銀色を慈しむように撫でながら松陽は言葉を続ける。
ーー鈴、多くは語りません。
「 」
「…ゆめ」
見慣れた天井。視線を動かせば頭の傍に上着が畳んで置いてある。
「目が覚めましたか?」
「お妙…?」
「鈴さん、風邪ひいてるんですよ。朝倒れたの覚えてらっしゃらないんですか?」
「朝って…もう夕方だけど」
「身体が楽になったでしょう」
確かに、熱特有の倦怠感は感じない。そして急激に思い出す倒れる前の記憶におもわず勢いよく上半身を起こす。
「依頼は?!」
「ちょっと、病み上がりなんですから急に動かないで下さい」
肩を押されて布団へ戻そうとする妙の手を掴んで抗議をするが
「いいから、大人しくしてろっつてんだろ?あ"ぁん?」
「いだだだだだだぁ!か、かっ、肩ァ!!壊れる!!」
肩に置かれた手に力が加わりミシリと音をたてる。
これ以上の抵抗は身を滅ぼすので大人しく布団に戻った鈴は妙に続きを促す。
「依頼ならあの子達が行きましたよ」
「…新八と神楽が」
「ちなみに鈴さんをここまで運んでくれたの新ちゃんなんですよ」
「ふーん……」
「いつのまに新ちゃんたら、成人通り過ぎた大の大人を抱えられるようになったのかしら」
いちいち毒を吐かないと看病が出来ないのかこのアマ。
「んで、何しにきたの」
「見てわかりません?床に伏せってる病人の看病ですよ」
「手に持ってるダークマターは何」
「あら〜それこそ節穴ってものですよ鈴さん。どーみても卵焼きじゃないですか」
「どーみても焼かれた卵じゃん」
''はい、あーん"と差し出されたブツに思わず顔を背ける。
「…そろそろ仕事でしょーが。私はいー
から行ってきなよ」
「そうですね、鈴さんも目を覚ました事ですし、私は一旦家に帰りますね」
ーお粥、新ちゃんが作ってくれてるので食べて下さいね。
カラカラと扉が静かに閉まる音を聞き再び目を瞑る。先ほどまで瞼の裏には師の朗らかな笑顔が浮かび上がっていたのに、今は二人と一匹の笑顔が浮かぶ。