オリジナル小説集

□小娘と茶袋
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はあ…また怒られた。
俺の名前は、真澄(まと) 隼翼(しゅんすけ)、普通の会社員だ。普通とはいえミスも多く24で弊社3年目、なのだが職場の空気に馴染めず職場の中でも浮いた存在なのだと思う。
沢山山積みにして渡された資料を自分の机に持って行き、また今日もロボットのように弱音も恨み言も吐かずに働かなければならない。

◆◆◆

昼休み、俺はいつも通りに、というかいつもの日課である上司にお茶を注ぐということを行っている。これは日頃自分のミスを嫌々でもカバーをしてくれる有難い上司への恩返しの意や媚の意を込めた行為で、学生時代茶道部だったとかではない。

「お前、お茶を淹れるのだけは上手いよな〜。この一杯も俺のモチベーションが下がらない理由なんだぜ?」

「ははは、ありがとうございます」

この特に意味の無い特技を褒めてもらえるのなら、お茶を淹れるのも悪くないなと思う。べ、別にアンタのために淹れてるわけじゃないんだからねっ!私が好きでやっていることなんだから!!
なんてカタカタとキーボードを打つ音を鳴らし、一人脳内ツンデレをやっているのだが、あの上司も俺がこの職場で浮いていると思わせてくる原因でしかない。
理由は簡単、使えもしない部下にあそこまで優しく接し、挙句お茶が美味いと言って俺にお茶を注ぎ続けさせるなんて俺をパシリに使いやがる嫌な奴だからだ。
カタカタカタ、カタカタカタ、されども仕事は終わりません。

◆◆◆

ウチは所謂ホワイトな企業というもので、遅くても20時には家に帰れて、基本は18時程度で退勤できるのだ。
さて、家に帰って風呂に入ってご飯を食べてゲームを少しだけやって寝よう!こうして残り1時間の勤務をやり過ごすのでした。

◆◆◆

外は真っ赤な夕焼けが広がっていて、カラスの鳴く声さえも風流を感じた。手を繋いで家に帰る親子、同じく退勤して家に向かう会社員、今日も1日が終わっていく姿を見て俺は足早に家へ向かうのだった。
会社に背を向け、スタスタと歩きだそうとしている俺に、見知らぬ手が右肩に触れ、「また明日も頑張ろうね」と、女の声で一言残して誰かが通り過ぎていった。
てか、明日休日なんだけど…。

◆◆◆

「ただいま」

返ってくるものは、虚無である。家族がいないわけではないのだが、大抵この時間は誰もいないのだ。
両親はまだ若い方で毎日せっせと働いている。そして、俺には妹がいる。もう何年もまともな会話をしていない同居人同様のサマではあるけれど、妹がいる。
まだ妹は学生で、帰ったら大抵寝ていて、飯時になれば降りてくる。しかし、肝心な飯は本日無い。母親の残業である。
空腹に敗れ、何かご飯を作ることにした。久しぶりの料理だけれどまともに作れるだろうか…。と、不安に不安を重ねお腹を痛めていると、トテトテと階段を降りる音がした。


【お金の妖精】
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