それはきっと(b)

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一晩を野宿で過ごし、コトキに着いたのは昼過ぎだった。
二人と一緒に昼食を食べた後、ミシロタウンに戻る彼らと別れる。

激励の言葉ももらったし、そう簡単には負けられないな。

懐かしさを感じる102番道路を歩きながら、得た情報を思い浮かべる。

ハルカちゃんの話によれば、センリさんはノーマルタイプのジムリーダーらしい。
あたしのポケモンたちには、ゴーストタイプがいないから、真っ正面からぶつかるしか無いだろう。
あえて言うとすれば、アルナイルにノーマル技はいまひとつだから、まだこっちの方が有利かな。


「ひとまず今日はトウカのポケモンセンターに一泊か」


楽しみだ。
センリさんは、リーグ挑戦を決めるきっかけになった人だから。
……だから絶対、勝って越えてみせるのだ。





×××





「そうか……、ジムバッジを4つ集めたのか。
では約束通りポケモン勝負だな……」


振り返ったセンリさんが感慨深そうにそう言う声に、あたしは笑顔で口を開く。


「お久しぶりです、センリさん。
あたし、センリさんとのバトル、ずっと楽しみにしてたんですよ」
「ああ、私もずっと楽しみにしていたよ」


穏やかに笑ったセンリさんに、あたしは口角をあげる。


「勝たせていただきます」


一瞬目を見張ったセンリさんが、あたしと同じように口角をあげた。


「全力でかかって来なさい!」
「はい!」


次の瞬間ボールを投げたのは、二人同時だった。





×××





「か……勝った……。勝ったよレグルス!!」


とっさにバトルフィールドに出て、バトル中にジュプトルからジュカインに進化したレグルスをギュッと抱きしめた。
すると、ぐえっと情けない声がレグルスから聞こえ、驚いてぱっと離す。
……どうやら首を絞めてしまったらしく、軽く睨まれた。
ごめん、と謝っていれば、センリさんがあたしたちのそばに立つ。


「……よくここまで……。
なまえちゃん。これをきみにあげよう」
「ありがとうございます!」


受け取ったジムバッジを眺めていれば、センリさんは口を開く。


「きみが旅に出ると聞いたときは、記憶もないのに大丈夫かと心配になったが……、どうやら私の杞憂だったようだね」
「はは、レグルスたちもいるし、ぜんぜん問題ないですよ。
……ただまぁ、記憶についてはあまり進展無いですけどね……」


苦笑しながらそう言えば、センリさんはそうかと呟き、あたしと目を合わせた。


「旅は楽しいかい?」


その言葉に、あたしは笑顔で答える。


「とても楽しいです」


レグルスと出会って、アルナイルが加わって旅に出て、そしてスピカが仲間になって。
色々な町を巡って、その度に色々なものを見て、経験して、強くなっていくことが、とても嬉しくて、楽しい。


「それは良かった。外まで送るよ。……さ、行こう」


優しく微笑んだセンリさんに促されるまま、あたしはジムをあとにした。





×××





「あ!なまえさん、センリさん!
お二人ともお久しぶりです。偶然ですね!
ちょうどウチに忘れ物を取りに来たところで……」
「ミツルくん、頑張っているようだね。勝負しなくても分かるよ」


にこりと笑ったセンリさんに、ミツルくんがぱっと顔を輝かせる。
ありがとうございます、と言う彼の顔は、見てるこっちが笑顔になりそうなほど嬉しそうだった。
後ろにいる彼のお父さんが口を開く。


「ご覧のとおり、ミツルはすっかり元気を取り戻してね。
これもすべてきみとセンリさんのおかげだよ」


いやいやそんな、と首を振るあたしとセンリさん。
ミツルくんのお父さんは声を上げて笑った。


「あの日、ミツルがポケモンを捕まえるのを手伝ってくれたから、パートナーと呼べるポケモンと出会うことができたから、ここまで元気になってくれた。
本当にありがとうね」


そうだ!と、何かを思いついたらしいミツルくんのお父さんは、あたしに技マシンを差し出した。
受け取って驚く。
それはあたしたちが欲しいと話をしていた、なみのりのひでんマシンだった。


「ほ、本当にいいんですか?」
「もちろん。そんなに喜んでくれると私も嬉しいよ」


ありがとうございます、と言って頭を下げれば、センリさんが口を開く。


「なまえちゃん。
きみやミツルくんの実力なら、118番道路から海を渡った先に広がる大地━━━、
さらなる強きポケモンが暮らし、強きトレーナーたちが待ち受けるホウエンの右側でも旅を続けられるはずだ。
頑張るんだよ」
「はい。ありがとうございます」


そう答えたあたしの隣に、ミツルくんが移動してくる。


「なまえさんに負けないようにぼくも頑張ります!
………それじゃあお父さん、そろそろ行くね。
…さ!なまえさん行きましょう!」
「ミツルくん。きみとポケモンたちの更なる成長を楽しみにしてるよ。
……なまえちゃん。体に気をつけて、たまにはミシロのみんなに元気な顔を見せてあげるんだよ。
最近オダマキ博士に連絡してないだろう」
「……あ、はい。……すいません」


そう言えばカナズミで連絡したきりになっていたことに気付く。
レグルスもアルナイルも進化してるし、スピカだって仲間になってるから、その辺りも報告しないとな……。
そんな反省をしていれば、センリさんは楽しげに笑った。


「じゃあいってきます!」


ミツルくんの言葉に、センリさんとミツルくんのお父さんがいってらっしゃいと送り出してくれた。

せっかくなので一緒にキンセツシティまで行きましょうと誘ってくれたミツルくんとともに、キンセツに向かい歩き始める。
体が弱いなんて信じられないペースで進んでいく彼に驚きつつ、やっぱりポケモンと一緒だと強くなれるんだなぁとしみじみ感じた。

無事キンセツまでたどり着けば、彼は息を吐きながら口を開く。


「ふう……けっこう遠かったですね、キンセツシティ」


そうだね、と答えれば、彼がくるりとあたしを向き直った。
首を傾げれば、彼はにこりと笑う。


「じゃあなまえさん、ぼく先に行きますね。
次に会ったときは絶対ポケモン勝負しましょうね!
ぜったい!」


言うやいなや、たたたっと駆け足で118番道路方面に去っていったミツルくんに、ほんとに元気になったんだなと感じる。
一瞬あたしも追いかけて先に進もうかとも考えたが、今日はキンセツのポケモンセンターに泊まる方がいいだろうと考えを改める。


「……博士にも連絡しないといけないし」


小さくそう呟いて、あたしはポケモンセンターへ向けて歩き出した。








(……勝負、楽しみにしてるよ。ミツルくん)

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