それはきっと(b)

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フエンのポケモンセンターにたどり着き、レグルス達を預けたあたしは、温泉のにおいに包まれた町を散策する。
……まぁ、実際はポケモンジムを探すのが目的だったりもするけれど。
無事見つけ少しだけお邪魔すれば、そこには温泉の湯気が立ちこめていた。


「水?……いや、炎か」


そう呟いたとき、ハジツゲでダイゴさんが、次のフエンは確か……と、何かを言い掛けていたことを思い出す。
あれはきっと、炎タイプのジムだと言いかけたのだろう。
あの時スピカはヒンバスだったし、ダイゴさんはあたしの手持ちを知っているから当然の反応だ。
……そしてそれを言わなかったのは、あたしが乗り越えなきゃいけないことだから。

進化早々だけど、スピカに頑張ってもらわないとなぁ……。
そんなことを思ったとき、ふと、ジムの入り口の石像に目が止まった。



フエンタウンポケモンジム アスナ認定トレーナー!

ミツル



ミツルって、もしかしてあのラルトスの子だろうか…?
……いや、間違いなくそうだろう。


「あたしも負けてられないな……」


名前をそっと指でなぞりながら少し笑って、あたしはジムを後にした。




×××




「さて!それではみなさん、これからの予定を考えましょうか」


ぱん、と一つ手をたたき、あたしはレグルス、アルナイル、スピカの前にジョーイさんから借りてきた大きなタウンマップを広げる。

マップをのぞき込むそれぞれ。
スピカがするりとあたしに巻き付いてきた。

綺麗でかっこいいけど、突然大きくなっちゃって……。
そんなことを思いながら、一番大きくなった彼女の体を撫でた。


「今いるのがここ、フエンタウン。
……で、マツブサが言ってたおくりび山が、ここ」
『遠いな』
「うん。それともう一つ問題があるんだな」


あたしはそう言いながら118番道路を指さす。


「ここを通って向こう側に行くには、海を渡らなきゃいけないんだよね。
幸いスピカがいるから、なみのり使えばいいわけだけど、ひでんマシンが必要だし、ジムバッジも5つ無いと進めない」


言いたいことは分かる?
そう首を傾げれば、各々が頷く。


『バッジを集めながら、なみのりをみつけなきゃいけないってことだろ』
「その通り」


うんうんと頷きながらレグルスの頭を撫でれば、やめろと振り払われてしまった。
……キモリのときはまだ素直に撫でられていたし、嫌じゃないくせに。
ちょっと悲しいのでアルナイルを撫でる。
ダンバルからメタングになっても変わらず撫でられてくれるアルナイルは、多分レグルスより大人の対応だと思う。
……ちなにスピカは例外だ。この子は自分からくっついてきてくれるから。


「……で、みんなをジョーイさんに預けてる間に、ここフエンにあるジムをちょっと覗いてきたんだけど、どうやら……」


あたしはレグルスとアルナイルに目をやって続きを口にする。


「炎タイプのジムっぽいよ」


あたしの言葉に、レグルスが露骨に顔をしかめる。
いや、うん。気持ちは分かるんだ。ごめん。
平静を装っているアルナイルでさえ少し俯く。
人間で言うなら、多分ため息をつく感覚だろう。


「だから、進化早々悪いけど、今回はスピカに頑張ってもらいたいんだ。
先輩のレグルスとアルナイルに、スピカの力を見せてあげて」
『!……はい!』


顔をすり寄せてくるスピカ。
……うん、本当にかわいい。
いや、あたし親馬鹿だから、レグルスもアルナイルもかわいいけれど。


「でも、ジムリーダーなら当然苦手な水の対策もしてるはず。
だから何かあったらレグルスとアルナイルに頼むよ」
『ああ』
『…分かった』


あたしは最後に一つ頷くと、広げていたタウンマップを畳む。


「それじゃ、あたしこれ返してくるね。
皆には今日大分頑張ってもらったし、ゆっくり休んで」


そう言って笑うと、あたしは部屋を出る。
……ジョーイさんにこれ返したら、ちょっと外に出てきずぐすりとか買っておこう。
いつ何があるか分からないし、備えあれば憂いなし、って言うしね!





×××





翌日、フエンジムに挑戦したあたしたちは無事アスナさんに勝利した。
結局一体で頑張ってくれたスピカを褒め、これならいけるなと思いながらジムの外に出れば、そこにはユウキくんと、ハルカちゃんの姿があった。


「なまえさん!元気そうで良かったです!」
「や、二人とも。こんにちは」


あたしの挨拶に笑顔でこんにちはと返してから、ハルカちゃんが口を開く。


「……この間、ナントカ団ってヤツらとゴタゴタしたから……。
なまえさん強いの知ってるけど、別れた後ちゃんと無事に旅を続けてるか、うまく言えないけど、心配だったっていうか……」


心配してくれた二人に大丈夫だよと笑う。
隕石もちゃんと取り返したから、と言って見せれば、二人は驚いたように目を見開いた。

……余談だが、隕石を取り返した報告をソライシ博士にしたところ、あたしに譲ってくれるとのことらしい。
………さらに余談だが、今度ダイゴさんに会ったら自慢しようとも思ったけれど、それはつまりマグマ団を追いかけて行ったことの証明になってしまい、怒られるのが目に見えているのでやめた。


「やっぱりすごいなぁ、なまえさんは……」


ユウキくんがそう言ったとき、ハルカちゃんがユウキくんを肘でつつく。
はっとしたユウキくんは、鞄からゴーゴーゴーグルとやらを取り出し、あたしに差し出した。
……なんでも、これがあれば砂漠に行けるとのことなのでありがたくいただいておく。
時間が出来たら今度行ってみるとしよう。


「……あ!フエンのジムバッジ持ってるんですね!」
「……ということは、次はトウカにあるセンリおじさんのジムに挑戦するんですか?」
「うん。だから一度トウカに戻ろうと思ってるよ」


そう言えば、ユウキくんとハルカちゃんは顔を見合わせ、一つ頷く。


「オレたちもちょうどミシロに行こうと思ってたんです」
「良かったら途中まで一緒に行きませんか?」


その提案を断る理由なんて持ち合わせていない。
あたしは笑顔で口を開く。


「喜んで!」


彼らもまた笑顔になるのを見て、少し幸せな気分になった。









(あ、でもその前に、ポケモンセンターに寄って、スピカの回復だけはしないとな……)

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