それはきっと(b)
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朝食を一緒に食べたあと、エアームドに乗って飛び去るダイゴさんを見送った。
とりあえずまずはミクリさんに会いに行くらしい。
ミクリさんがどこに住んでるのか知らないけど仲良いなと思いつつ、あたしはソライシ博士に挨拶しようと博士の家を訪れた。
そこで会ったユウキくんとハルカちゃんがキンセツに向かうと言うので途中まで一緒に戻る。
えんとつ山に向かうと言ったあたしを、気をつけてと案じてくれる2人に手を振り、あたしはロープウェイ乗り場に足を向けた。
もしまだあそこにマグマ団がいるようなら、無理矢理でも登ろう。
そう勢い込んで来たが、入り口にマグマ団の姿はなく、何の問題もなく普通に入ることができた。
窓の外の景色を見つつ、山頂にはマグマ団がいるだろうかと考える。
いてもいなくても、とにかく何か手がかりがほしい。
もし、あたしがこんな風にマグマ団を追いかけてる、なんてことをダイゴさんが知ったら、きっと彼に叱られてしまうだろう。
アルナイル曰く、彼は過保護なのだから。
もしかすると、叱るより前に卒倒するかもしれない。
さりげなく失礼なことを思っていれば、ゴンドラが山頂に到着する。
駆け足でロープウェイ乗り場から出れば、そこにはあちこちで対峙する、マグマ団とアクア団の姿があった。
「くっそ!邪魔くせぇぞ!マグマ団どもっ!」
流星の滝でアオギリと名乗っていた、アクア団のリーダーの姿も見える。
結構な多人数で来たのだろうし、衝突するのは当然だ。
その点、一人で乗り込んでるあたしは見つからないように行動しやすい。
それにきっと、アクア団とぶつかっているが故にマグマ団は思い通りに行動できていないのだろう。
そしてそのおかげで、マグマ団がえんとつ山にいるうちにあたしも来れたのだから、少しだけ感謝をしておく。
「ウヒョヒョヒョ!?おまえ!流星の滝でわたくしホムラ様の邪魔をした!
ま、まま、またしてもまたしても邪魔をするつもりですか……」
隠れて進んだ先に居た見覚えのある姿。
それに気付くと同時に足を止めれば、こちらを振り向いたホムラがそう言った。
「……ふぐぬぅぅぅ!もう本当に………。
本当にホントウに、ほんとにほんとにホントにホントに」
地団駄を踏むホムラに、平静を装いつつ少し引く。
大の大人が、恥ずかしくないのだろうか。
「ほんっとうにぃぃぃ!
しっつこいチャイルドですねぇぇぇぇっ!」
そう叫んだホムラは、肩で息をしたあと、いかにも悪者っぽく口角を歪めた。
「握りつぶして……あげるよ。
二度とジャマできないように……ね」
言うなりバトルを仕掛け、ドガースを繰り出して来たホムラに対し、あたしも一番上にセットされていたボールを投げる。
今日の先頭は、アルナイルだ。
「いくよ!アルナイル!」
『……。片付ける』
どうやらやる気は十分なようだ。
×××
「よし……!!」
ドンメルが倒れたのを見てぐっと小さく手を握る。
……とはいえ、やっぱり炎タイプを相手にするには厳しいものがあった。
「やっぱり強いですねぇキミたちぃ……。
でもね、ざーんねん!
ナントカ博士からいただいた隕石はすでにイン リーダーズ ハーンド!」
そう言うホムラは、ご丁寧なことに、この先にリーダーが居ることを教えてくれた。
……ここに来たからには、進まないわけにはいかないのだ。
「あなたたちなぞ、もうめったくそのメタメタのコテンパンに伸されてしまえば良いのです!」
そんな声と、笑い声を背に、あたしはひとまずレグルスとアルナイルの体力を回復する。
……あたしのミスだ。
もっと早くに、スピカを戦力に数えられるくらいにしておくべきだった。
これでは、マツブサに勝てるか分からない。
「……」
『なまえ!』
「ん?どうしたの?スピカ」
ぽん、と勝手に出て来たスピカに、あたしだけじゃなくレグルスとアルナイルも首を傾げる。
『わたしも戦えるよ!』
「!」
明るくそう言った彼女に、目を見開く。
……確かに、はねるしか覚えていないと思っていた彼女は、あたしの所に来たときにはすでにしおみずを覚えていたから、戦えないことはない。
それに、もうすでに青色ポロックも限界まで食べて貰っているから、ミロカロスになる準備も万端だ。
……が、彼女はいかんせん、戦闘の経験がない。
時間をかけて、経験を積んでから進化した方が進化後の力を活かせると思っていたし、今もそう思っている。
それに、スピカが分かっているかは謎だが、次の相手はマグマ団リーダー。
初バトルで相手にするには、少なからず重い。
……が、今の状況では、水タイプの彼女が即戦力であることも確かではある。
「……怖くない?」
『大丈夫です!』
「……そっか」
少しだけ目を閉じる。
こんなに素直に慕ってくれる彼女の期待に応えるも応えないもあたし次第だ。
彼女は、戦う覚悟ができている。
できていないのはあたしだけ。
『無理だと思ったらオレたちが変わればいいだろ』
『……挑戦、大事』
「そうだね……。よし!」
かがんでいた体制から勢いよく立ち上がる。
「やってみようかスピカ!初バトル!」
『はい!』
意気揚々、やる気満々な小さな彼女が、とても頼もしく見えた。
×××
三体をボールに戻して、あたしは先に進む。
するとそこには、こちらに背を向けたマツブサの姿があった。
「隕石に秘められた力……。
星のコアに眠る爆発的なエネルギーとこの隕石をマージさせれば……」
そこまで言ったマツブサは、あたしに気がついてこちらに体を向けた。
「……その何者にも屈しないかのような強い意志をそなえた瞳……。
そうか、キサマはカイナの科学博物館で我々の邪魔をした……」
「……覚えていただいていたようで光栄ですね」
皮肉っぽくそう言ってやったが、マツブサは眉一つ動かさない。
「ここにたどり着いたということは、ホムラを打ち倒したわけだな。
……なるほど。あのとき感じたざわめきは間違いではなかったと……」
なにかを考えるようなその口ぶりと、僅かに弧を描いた口元に、あたしは無意識のうちに身構える。
「……フフ、悪くない。
……よかろう。今日もまた少しだけためになる話をしてやる」
そんな前置きから始まった話はこんなものだった。
数千年の昔、大地を生み出すと言われる大いなる存在がいた。
マグマ団の欲する、大地を広げることのできる伝説の超古代ポケモンは、今は力の源を失い深い眠りについているらしい。
そんな超古代ポケモンを目覚めさせるために研究と調査をした末、たどり着いたのが、ここ、えんとつ山と、隕石だそうだ。
ある条件を満たすことで、隕石の特性は、メガストーンや、キーストーンに変化するらしい。
そしてここえんとつ山ならば━━━、
そこまで言って、マツブサは今日の授業はここまでと締めくくった。
「……さて、それではそろそろ始めようか……。
粛清の時間を」
そう言ってマツブサがモンスターボールを取り出し、あたしもボールに手をかける。
「カイナの博物館でもクギはさしておいたであろう?
我々の邪魔をする愚か者には容赦せぬとな!
私自らの手で葬ってやる。……光栄に思うがよい!」
×××
「ほう……。このマツブサを退けるか。
クク……楽しませてくれる」
戦闘中に、やはりというかなんというか、ヒンバスからミロカロスに進化したスピカのおかげで、無事勝利を収めた。
……バトル中にちょっと見惚れてしまったから、そこはまた別に反省するとして。
負けたはずのマツブサが、余裕かましてるのはなぜだろうか。
「よかろう……!それでは我々もチカラを解放させてもらう……!」
そんな言葉を口にしたマツブサは不敵に笑う。
「一寸の希望さえも打ち砕く我がポケモンのメガシンカパワー!
とくと味わうがよい!」
「いやいやいや、嘘でしょ……」
思わずそう呟く。
レグルス達は瀕死ではないものの戦闘で消耗しているし、スピカも進化後の力をうまく使いこなせていない。
この上メガシンカの相手をするのは、正直分が悪い。
こうなったら全力で逃げるか……?
そんなことを考えたとき、マツブサのもとに通信が入った。
「……ム?……私だ」
あたしに背を向けて話すマツブサ。
主に聞き役らしく内容は分からないが、マツブサが言った、おくりび山、という単語だけは確実に耳に届いた。
「……勝負の途中ですまぬが、失礼させてもらおう。
非礼をわびて、この隕石はキサマにくれてやる。好きにするがよい。
マツブサを退けた者。その顔、覚えておくぞ……!」
そう言ってあたしに隕石を渡したマツブサはその場を立ち去る。
追うことも一瞬考えたが、レグルス達の疲労も考え、それは却下する。
無茶はしない。そういう約束だ。
少ししてやってきたアオギリがマツブサ……、否。
マグマ団への文句を吐き捨ててどこかへ向かっていった。
ガキンチョ呼ばわりされたこと以外は特に何もされなかったので、ひとまず良しとする。
「……さて、と。ひとまずフエンのポケモンセンターに行きますかー」
ポケナビのタウンマップを起動させて、自分の位置と、フエンタウンの位置を確認する。
日が落ちるまでにたどり着くのが目標かな、と。
そんなことを思いながらあたしは歩き出した。
(この隕石は……まぁそのうち返しに行こうかな)