それはきっと(b)

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「こんにちは。初めまして」


外食をした翌日。
一通り街の中を見て回り、レグルスとアルナイルとポケモンセンターのソファーでこれからについて話し合っていると、白い服の、きらきらオーラのようなものを纏った男の人に声をかけられた。
普通にレグルスたちと話してしたあたしはぎくりと固まってから彼を見上げる。
目が合うとにこりと笑った彼は、どうやら何も不審に思ってはいないようだ。


「赤い帽子をかぶった、キモリとダンバルを連れたトレーナー…。
キモリは進化しているようだけど、キミがなまえちゃんであってるかい?」
「……そうですけど…」


昨日見た夢もあるのかないのか、いつも以上に警戒してその男の人を見れば、彼は笑顔を深めて言う。


「あぁすまない。私はミクリ。コンテストマスターだ。
キミのことはダイゴから聞いていてね。だからそんなに警戒しないでくれ」


ちなみにダイゴとは古い友人なんだ、と言って笑うミクリさん。
すみませんと謝れば、彼は更に笑って続ける。


「キミが謝る必要はない。
初めて会う人が自分を知っていたら警戒するのは当然。
今のは完全に、私に非があったよ」


それからあたしの隣に座ると、周りに聞こえないよう声を落としてささやく。


「ちなみに私は、キミに記憶がないことも知っているからね」
「……そうですか……」


ポケモンと話せるってことは知らないみたいだけど、ダイゴさんは相当ミクリさんを信頼してるんだな。
そう思っていれば、彼はふとレグルスたちを見た。


「ふむ…よく育てられている。
ポケモンたちの知識と、ポケモンたちへの愛は確かなようだ」


そう言って、少し考える素振りを見せたあと一つ頷いたミクリさんは、どこから取り出したのか、一枚のカードを取り出した。


「これはコンテストパス。
ポケモンコンテストは知っているかな」
「名前は一応。でも、テレビで軽く見たことがある程度なのでよく分からないです」
「それは何よりだ」
「………はい?」


知らないことを少し申し訳なく思っていたというのに、知らないことを何よりだと言われ首を傾げる。


「明日、ここカイナシティでノーマルランクのポケモンコンテストがある」


確かに、そのコンテストが開かれるってことはこの街の至る所にポスターが張ってあったので知ってはいる。
さっきまでだって、せっかくだから見ていこうかとレグルスたちと話していたのだから。


「百聞は一見に如かず。習うより慣れろとも言うし…。
参加してみないか?」
「えっとその……簡単に出られるものなんですか?」


コンテストというのだから、普通は練習を重ねて出るものなのではないかと訊ねれば、ミクリさんは普通はねと頷く。


「けれど私は、なまえちゃんならば問題ないと思うよ。
キミとキミのポケモンたちが今まで一緒に過ごした成果を見せればいいだけなのだからね。
それに、コンテストの様子はホウエン中に放送される。
記憶を失う前のキミを知っている人も、もしかしたら見るかもしれない」


あたしはその言葉に、レグルスとアルナイルを見る。


『…まぁ、付き合ってやってもいい』
『なまえのためになるなら。
……でも私は出ません』
『おい』


そんな会話にクスリと笑う。
アルナイルは少し恥ずかしがり屋なところあるからねぇと言って軽く撫でてから、ミクリさんに顔を向ける。


「ミクリさん。参加させていただきます」
「その答えが聞けて嬉しい。
……ちなみに、今日はこのポケモンセンターに泊まるのかな?」
「はい。そのつもりです」


もう部屋取ってあるんで。
そう言うと、彼はにこりと笑った。


「それじゃあ明日の朝、ここで落ち合おう。
渡したいものがあるからね」


そう言うと彼は立ち上がる。


「それじゃあ私はこれで失礼するよ。
また明日、ここでね」
「はい」


ポケモンセンターを出て行くミクリさんを見送ってから、あたしはレグルスに声をかける。


「じゃあ、明日はよろしく頼むよ、レグルス。」
『任せとけ』


進化してキモリのとき以上に頼もしくなったレグルスに、あたしは声を立てて笑った。




×××




「ダイゴ!」


そろそろ溜まった書類の確認をしろ、と。
なまえちゃんから受け取った手紙にそう書いてあったため、デボンに戻って仕事をしていたとき、ボクを呼んで入ってきたのは、この会社の社長である親父だった。

忙しいから邪魔しないでほしいんだけどと視線を送れば、ボクの意図には全く気付く様子もなくテレビのリモコンを操作する。

親父がつけたのはポケモンコンテストの中継だった。
そう言えばミクリがカイナでコンテストがあるとかって言ってたっけ。
……なまえちゃんも今カイナにいるだろうし、ミクリに会ったのだろうか。
いや、旅をしてることは伝えたから、ミクリが彼女を探して見つけたかもしれないな。

……まぁそれはともかく。


「親父、コンテスト見るのは勝手だけどここでは止めてくれないか」


気が散る、と付け足せば、親父はそうじゃないと叫ぶ。

そうじゃないって、なにが。

そんな視線を送れば、こちらを向いた親父と目が合う。


「これ、なまえちゃんだろう!」
「………は?」


驚いてテレビの画面を見れば、そこには確かに客席に笑顔を振りまく彼女とレグルスの姿が映っている。

……が。問題はその格好。
全体的に白い衣装でヘソ出し。
胸元は幸いなことに首もとまであるハイネックのようなものだが、スカートがかなり短い。
驚き固まったボクに、親父は続ける。


「いやぁ可愛いくていい子だとは思っていたけど、やっぱり衣装を着るとまた違った魅力を持った子だね!
ダイゴ。お前一体どこで知り合ったん……え?」


親父の言葉を聞き終わるよりも先に、ボクは会社を飛び出した。




×××




「ミクリ!」


会社を出てエアームドをボールからだし飛び乗り、カイナシティのコンテスト会場に着くと、ボクは真っ直ぐミクリのいるであろう特別席へ向かった。
途中スタッフに止められたが、ボクがミクリの友人でありホウエンチャンピオンであることもありすんなりと向かうことができた。


「やぁダイゴ。キミがコンテストを見に来るなんて珍しいこともあるものだね」


そう言いながら優雅に笑う彼を問いつめる。


「なまえちゃんのあの衣装、ミクリの差し金だろう!?」
「差し金とはまた酷い言われようだな。
よく似合っているだろう?怪盗をイメージしたんだ」


イメージの通り、彼女はしっかり観客のハートを盗んでいるじゃないか。すばらしいね。
そう言ってミクリは再びステージに目を移す。


「そんなことを言ってるんじゃない!
彼女の事は話しただろう!?
なのにあんな目立つ衣装を着て、多くの人の目に映ることで何かに巻き込まれたらどうするんだ!?」
「……ダイゴ。私だって何も考えていない訳じゃない」


ミクリはそう言うとバサリとマントを翻し、真剣な顔でボクと向かい合う。


「このコンテストの様子はホウエン中に放送される。
もしかすると、記憶を失う前の彼女を知っている者が見るかもしれないだろう?」
「確かにそうかもしれないが、もし記憶をなくす前に彼女を狙っている奴がいたとしたら?」
「その時はその時で対応すればいい。
……それに、彼女を狙う連中がいたとしたら、私はともかく、ダイゴ。
お前が彼女と親しくしていることは分かるはずだろう。
もし彼女を狙う連中がいたとしても、おいそれと手は出せないんじゃないか?」
「………」


押し黙ったボクを見て、ミクリはふと頬をゆるめる。


「ダイゴが彼女を心配していることは分かっている。
だが、お前は少し過保護すぎる。
可愛い子には旅をさせよって諺もあることだしね」
「……」
「それじゃあコンテストをゆっくり見ようじゃないか。
ちゃんと見て彼女に感想を言ってあげたらどうだ?
ダイゴの感想なら、なまえちゃんもきっと喜ぶだろう」


ミクリに促されて見るというのも少々癪だったが、ぐっと飲み込んで彼の隣に立つ。
ステージ側が一面ガラス張りのこの特別席にボクがいることを、彼女は知らない。


「……それにしても、あの衣装はもう少しなんとかならなかったのか」


思わず呟いてはっとする。
ボクの方を見たミクリが、あぁなる程と呟いてニヤリと笑った。


「……ミクリ。言いたいことがあるなら言ってくれ」
「…いや。なんでもないさ。どうやら自分ではまだ自覚していないようだからね。
…これでも彼女の衣装には気を使ったつもりだよ。
胸元が開いていないのが良い例さ」
「……」


さらりとそう言ったミクリに小さくため息をつき、ボクはステージ上の彼女を見た。










(……まぁ、楽しそうだし。
今回は良しとしておこうか…)

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