それはきっと(b)

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街の人々に造船所の場所を聞き、そこへ行ってみれば、ツガという人に、クスノキさんはここにはいないと言われた。
海の科学博物館へ行ったとのことなので、入場料を払い博物館の中へ入った。

が。

明らかにマグマ団と思われる奴らが沢山いるのはどういう事だろう。
その中にはあたしが持っているデボンの荷物を盗んだ奴もいて、そいつはあたしに気が付くと逃げていった。
今はただ単に見学しているように見えるけれど、あたしの中ではこいつらは前科がありすぎる。
もし、またマグマ団が何か企んでいるとしたら……。

あたしは気を引き締めて、クスノキさんを探し始めた。




×××




「はい?クスノキは私だが……?
おお!それはデボンのツワブキさんに頼んでおいたパーツだね!
いやーどうもご苦労さま!おかげで出発できそうだ…」


あたしがクスノキさんに荷物を渡そうとした瞬間、やはりマグマ団はやって来た。


「フフフ……。そのパーツ、我々がいただく!」
「だっ…誰だ!キミたちは!?」


驚き狼狽えるクスノキさんを後ろへ下げる。
クスノキさんの背後は壁だ。
前にいるこいつらを何とかすればいい。


「我々はマグマ団!
リーダーがそのパーツを欲しがっていらっしゃるのだ!
大人しく渡したまえ!」


奴らが強気の姿勢を崩さないのならば、こちらも強気で行かなければならないだろう。


「渡す訳ないでしょ。
それに奪わなくったって、デボンにそのリーダーさんが注文すればいい」


そんな事を言いながら、あたしは腰のモンスターボールに手をかけた。

今の先頭はアルナイル。
……さあ、あたしに力を貸してね…!!
あたしはそんな思いを込めてボールを投げた。




×××




二戦連勝。
まさか二人とも負けるとは思わなかったのか、マグマ団の下っ端は慌てている。
そこにやってきたのは、明らかに目の前の二人とは格の違いを感じさせる人物。


「パーツを奪うのにいつまでかかっているのかと思えば、こんな子供に邪魔されていたのか?」


子供……って、あたしそんなに子供って年じゃないと思うのですが。
……いや、自分の年もよく分からないけど。

取りあえず確実にあたしが言えるのは、この人が気に入らないってことだ。


「……フム。なかなか良い目をしている……。
この私の胸をざわつかせるとは……なるほど、確かにこの者たち程度では一分たりとも抗えぬかもしれん」
「お褒めにあずかり光栄ですね」


皮肉っぽく言ってみるが、相手の顔には何の変化もない。


「……我が名はマツブサ。
人類の更なる発展と進化をかなえるための組織、マグマ団の長を務める者だ」


長……と言うことはこの人がリーダー、つまりボスか。
なるほど。どうりでこの威圧感。


「……そうだな、キサマもまた未来ある若者の1人。
少しだけためになる話をしてやろうか」


この間、あたしとマツブサの視線は一度も外れることはなかった。
外したら負けだと、そう言われている気がしたのだ。


「大地……、それは我ら人類が次なるステップへ進むために存在するステージ……。
人類が活躍し、更なる進化を遂げるためにはステージの拡大が必要なのだ。
自らの足で踏みしめ…開拓し…発展させる……、その基盤がな。
故に我々マグマ団は大地を増やす……!
それが人類の……そいてはすべての生命にとっての未来えいごうの幸せにつながると信じてな…」
「……大地を、増やす……!?」


そんなこと、一体どうやって。
唖然とするあたしに、マツブサはふっと笑う。 


「…フフ、少し難しい話だったか。
…まあいい。今日のところは引き上げよう。
だが、これから先も我らマグマ団にたてつこうものなら、このマツブサ、容赦はせぬぞ。
ゆめゆめ忘れぬことだ……」


そう言ってマツブサは手下とともに博物館を去っていった。




×××




なんだかなぁ…。


海の科学博物館をあとにしたあたしは、ポケモンセンターのベットに転がり、マツブサの言葉を咀嚼していた。

溜め息をついたあたしの様子を、ボールから出していたレグルスとアルナイルが伺っているのが分かる。
そんな彼らに軽く気にするなと手を振って見せた。


あのマツブサというマグマ団のリーダーが言っていることも、一理あるのかもしれない。
……けれど、大地を増やすということはつまり海を減らすという事だ。
そしたらそこに住んでいたポケモンたちはどうなるのだろう?

マツブサは、すべての生命にとっての未来えいごうの幸せと言った。
しかし住処を奪われたポケモン達は、決して幸せではないだろう。
もしマツブサの言う生命のなかに、そのポケモン達が入っていないというのなら。

あたしはマツブサの考えを、認めるわけにはいかない。


そんなことを考えているうちに、あたしはいつの間にか眠ってしまったらしい。




×××




━━なまえ…━━
━━……なまえさん━━
━━どこにいるの━━


ふと、真っ暗な場所で、あたしを探している三つの声が聞こえた。


「………、」


しかし、あたしが声を出そうとしても、何故か声は出ない。
何も見えないし、あたしを探しているのが誰なのかも分からない。


そうこうしているうちに、声はどんどん小さくなっていってしまう。
待って、行かないで。
あたしはここにいるから……!

そんな思いで出ない声を張ろうと息を大きく吸う。


「待って!!」


そう叫んだあたしは飛び起きる。
寝ていたらしいレグルスとアルナイルが、驚いたようにあたしを見た。

…いや、あたしも自分に驚いているけれど。


「夢……?」


ドクドクと早く脈打つ心臓に手をあてれば、レグルスとアルナイルがあたしに近寄る。


『どうした?』
「いや、なんか……ちょっと夢見ただけ」
『夢?』


うん、そう。
答えながら窓の外に目をやれば、日はもう随分傾いていた。

…どうやらだいぶ長い時間寝ていたらしい。


「昼間マツブサの話聞いたせいだなきっと……」


多分あの話の何かが、あたしの忘れている記憶にヒットしたのだろう。

……あぁ、全く、寝覚めが悪い。


「よし」


あたしは勢いよく立ち上がり、レグルスたちに行くよと声をかける。
どこに、と首を傾げる二体に、あたしは笑った。


「なんか外に食べに行こう!
外食したい気分なの。たまにはいいでしょ?」


顔を見合わせた二体も、やれやれといいたそうな雰囲気ではあったが、あたしについて来てくれるようだった。










(さて。何を食べに行こうか?)

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