それはきっと(b)
□00.2
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ボクの座るソファーの正面のソファーには、一人の少女が横になって眠っている。
その傍らには、彼女が倒れたときなぜか一緒にいた、オダマキ博士の研究所のキモリが付き添っている。
彼女を抱え研究所について、キモリが彼女のポケモンではなく研究所のポケモンだと聞いたときもかなり驚いた。
彼女に出会った━━━、
…いや、彼女を見つけたのは、本当に偶然だった。
偶々オダマキ博士に用事があってエアームドにのってミシロタウンに向かっていたとき、眼下に彼女が見えたのだ。
ふらつき、ついに崩れた彼女を見て、ボクはとっさにエアームドに指示を出し彼女の近くに降り立つ。
そこには倒れた彼女と、そんな彼女をゆするキモリの姿があった。
「大丈夫かい!?」
そう言って駆け寄り屈むと、彼女は顔を上げ、ボクを瞳に写しどこかほっとした表情をうかべ、おもむろに口を開く。
「……リを、……て……い」
「…え?」
うまく聞き取ることができず聞き返すと、彼女はもう一度同じ言葉を繰り返した。
「キモリ、を……助けて下さい……」
「え、あぁそれは勿論助けるけど━━━」
一瞬面食らいつつも肯定し、君は大丈夫なのかと尋ねようとすれば、ボクが尋ねる前に彼女は目を閉じ、意識を飛ばしてしまったらしい。
そして、ひとまずオダマキ博士の研究所に運び、今に至る。
「はい。コーヒーでよかったかい?」
「ありがとうございます」
ボクの前にコーヒーを置いた博士は、ボクの隣に腰を下ろし、彼女とキモリを眺め話し始める。
「…アチャモとミズゴロウが、それぞれセンリさんの娘のハルカちゃんと、ボクの息子のユウキのパートナーになってから、キモリが研究所を抜け出すことがたまにあってね。
…それはきっとアチャモたちが羨ましかったんだろうし、ちゃんと帰ってくるからボクも多めに見てたんだ」
だからまさか、こんなことになるなんて思ってなくてね、正直戸惑ってるよ。
苦笑混じりにそう言って、博士はコーヒーを口に含む。
「…それにしても、本当になにがあったんでしょうか。
彼女もそうとうですが、キモリも傷を負ってましたし。
ポケモンはもちろん、持ち物も何一つない」
「キモリから直接聞けたらいいんだけどねぇ…」
そんな会話をして向かいで眠る彼女を見ていると、ぴくり、と彼女の瞼が動いた。
「う…?」
目を開いた彼女を見て、キモリが嬉しそうに鳴く。
「え……?キモリ……?」
はっとしたように身体を起こした彼女はボクと博士を視界に収める。
「こんちには。目が覚めて良かった。
ボクのことは覚えてるかな?」
「あ…えっと、倒れたときに声かけてくれた……」
「うん。良かった覚えててくれて。
ボクはダイゴ。こちらはオダマキ博士。
きみが倒れたときに一緒にいたそのキモリは、この研究所のポケモンだったんだ」
そうなんですか、と呟きながら彼女はキモリを撫でる。
キモリは気持ちよさそうに目を閉じた。
「きみが気を失ってからのことを簡単に説明すると、ポケモンセンターよりも、ここミシロタウンにあるオダマキ博士の研究所のほうが近いと判断してここに運んだんだ。
それから、きみは怪我をしていたし服もボロボロだったから、博士の奥さんに着替えさせてもらって、傷のほうも手当てさせてもらったよ」
「…ご迷惑をおかけして申し訳ないです…」
しゅんと小さくなった彼女に向かってキモリが励ますように彼女の膝をたたき、彼女はありがとうと言いながら苦笑する。
「…それから、キミのことと、キミとキモリに一体何があったのか聞いていいかな?」
「━━━、はい」
一瞬彼女の表情が強ばる。
しかし次の瞬間には何かを決意したような表情を浮かべていた。
「……あたしの名前は、多分なまえといいます」
「多分…?」
ボクの言葉に彼女は頷くと、再び口を開き、まっすぐとボクたちと目を合わせて話し出した。
(頭をぶつけたのかなんなのか分からないですが、名前以外何も覚えていないんです)