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□10月
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衣替え



「あっ・・・。」
いつもと違う、真島さんのスーツ姿に思わず声がもれてしまった。

「ん?何や?」
幹部会ではないのか、いつものダークグレーに赤いワイシャツではなく、黒にうっすらとグレイの細いストライプの入った細身のスーツに白いワイシャツと白いネクタイをしていた。

鏡に向かってネクタイを直しながら、鏡の向こうからこちらの様子を見ている真島さん。
何も言えずにただ見惚れていたら

「何や。惚れ直したか?」
と、ニヤリと顔はいつものように笑っている。

はっと気づき、慌てて目を逸らそうとするけど出来ない。
ゆっくりとこちらを振り返り、少し首を傾げた。

「小雪、今エライ物欲しそうな顔しとるで?」

「あ・・・あの。真島さん。
今日はどうしていつもと違うスーツなんですか?」

ヒヒッと笑うと、
「衣替えや。」
そう言った。

極道の世界にも、衣替えなんてのがあるなんて初耳だ。
前の赤いシャツでも格好いいと思ったのに、白いワイシャツは前にも増して一層真島さんの凛々しさを引き立てるような気がする。

「素敵です・・・。」
それしか言えない私に、真島さんは少し赤くなって

「冗談に決まっとるやろ。
新しく組立てる言う奴がおるから、祝いに行くからこないな格好しとるだけや。
そないに素直な小雪を見ると・・・。
なんや、調子狂うな。」
ガリガリとうなじをかいた。

冗談も煽るような視線にも、何も答えられずに、ただ頬を赤くして見ている私に真島さんは近づいてきて、私の頭をポンポンとすると

「そんなに見られたら、こっちも恥ずかしゅうなるわ。
もう、小雪が他の奴見んようにこれからもこのスーツでおるか?」
そう言って笑ったので

「ずっとこんなに格好いいと、私の心臓が持ちません・・・。」
呟きながら、ぎゅっと抱き付いた。








2015/10/02
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