夢部屋

□【罪深き毒】
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「ねえ、こんなのばれたら、どうするの。神々の義眼を持つ少年」


「…昔みたいに、名前で呼べよ」

ぐらり、と歪んでいた視界を元に戻せば、求めて止まなかった彼女の声がする。
笑いながら俺に尋ねれば、低い声色で答えてやる。


「呼びたくないなぁ。昔のあたしと、今のわたしはちがうのだから、ねえ?」


どうなの、なあ?と艶やかな声で耳元を侵していく。
それは、確かに昔の彼女とは明らかに違う雰囲気。
着ている服も、髪型も、香水のにおいも。
なにもかもが違う彼女、けれどかわらなかったものもあった。


「眼の色は、変わっていないじゃないか」

「ははっ、違いないね」


美しいターコイズブルーの瞳、俺は彼女のその眼の色が好きだった。
そして、この彼女を支配している『彼女』も、その瞳に魅せられた一人だったのだ。


「わたしの瞳は、とてもきれいよ。だぁいすき。この眼がほしくてほしくて、たまらなかったの…」

「だから、彼女から奪ったのか」

「そぉよ? なぁんだ、気づいてたんじゃないの。」


悪い人ね、と囁き、耳元をべろりと甞められた。
嫌悪にも似た悪寒が、背筋をかけぬけていく。
そして眼が合った。


「ふふ、あなたもこの眼がほしかったのね」
「…あわよくば、君さえもほしかったんだけどね」

「あら、素敵」


いたずらをする子供みたいな笑顔を浮かべ、俺を逃がさないように抱きしめる。

「この眼は、毒なのよ」


ぽつりとつぶやいた彼女は、抱きしめたまま顔を見ようとしない。
なにか、言い聞かせるような、そんな言葉。


「わたしと、あなたを縛るための、毒」


好きよ、と囁かれれば、心臓が跳ねる。
眼に焼きついて離れない、あの美しい青。
心拍数が上がって、だんだんと良心が消えてゆくようにも思える。
それはきっと言い訳だ。もともと抑えていた感情は異常な街に順応してしまっていたのだ。
これはたがをはずすきっかけに過ぎない。

「はじめから、こうしてればよかったのかな」

「さぁ、どうなのかしらね?」


【罪深き瞳】


(殺してしまった彼女と、殺されてしまった俺はきっと同じ色の瞳をしていたのだ)


あとがき

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