夢部屋

□【昼下がり】
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世界はきっと謎と不思議と素敵なものであふれてる。
そして悲しいこととか、苦しいこととかだってあるんだろう。
残酷なこともある。それ含めて世界だ。
不条理さが売りのこの醜くて、なんとも憎めない世界が、わたしは大好きだ。


「つっても、この状況は解せぬわあああああああああ!」




叫ぶ場所はHLの郊外、裏路地の屋上だ。
後ろからはわっけのわかなん連中らが追いかけてきててだなぁ、もお〜めんどっくさいんだわ。
どうしてくれんの?この状況さぁ〜。


「おたく、なにしちゃったわけ? あたし関係ないわよね?」


そう隣でガクブル震えている少年に声をかければ、ああ、とかううとかうなっててお話にならないわけっさ。
さっきから原因らしきこいつを小脇に抱えてあっちゃこっちゃ逃げ回ってんだが、そろそろ逃げ場がないぞ、これー。

「姉ちゃんがソイツを置いていってくれんならなんでもいいんだぜ?」
「むしろ俺は姉ちゃんとお近づきになりたい」
「抱かせろやごら」



なんなん、あんたら、自由か!
あったまいたくなってくるわ、なんか会話してるだけでアホになりそうだわ、あー欲望だけの人間にはなりたくないわねー。
なんて考えていたら、どんどん距離縮めてきてるじゃない? これ、やばいよね?
腹立つわー、こんなやつらに、あたしの領域に踏み込まれんのもさぁ、なんもいわねーこのガキにもさぁー。


「うるせぇなぁ、ごちゃごちゃとさぁー。めんどくさいからそろそろのしちゃっていいかなぁ、少年」
「そ、それはっ、だめです!」
「お、意思疎通できるようになったね。上出来上出来。んじゃ少年よ、その目でいっちょ引っ掻き回してやってよ」



ここ、絶景よ?と笑ってやれば、少年は驚いたという顔になる。
ばかだなぁ、気づかない人間だと思ってたわけ?とため息をつく。
はぁ、と声を落とし、少年は屋上はしに顔を向けた。


その眼がどういうものなのかは、割とどうでもいい。
レアなにおいはするんだけど、なんか大切そうだし。
なにより、なんかおもしろそうじゃん?って思ってここまで一緒に逃避しちゃったわけだし。


「ちゃぁんと、最後まで付き合ってやんよ。気張れよ、しょうねぇん」
「ぅ、わかりましたっ!」

「いい返事だ!」



ヴン、と耳に届いたのは、きっと眼の起動だろうな。
高性能な感じだねぇ、いいねぇ。実に愉快だよ、愉快。


目の前でゲスい笑いをしてたやろう共がばたばたと倒れていく。

「うぁわあああ!」
「あたまがあぁああ」
「たかいいいいいい」



ソレを見計らい、あたしは一度だけジャンプをして、ダッシュで男どもの中に入り込めば、足技【足薙】で蹴散らした。

断末魔と叫びが遠くに聞こえ、お見事ホームラーン。さすがあたし。ばっちりじゃないの。

ふふーんと笑って見せれば、後ろから少年の連れていた猿が頭にのってきた。

なんだいなんだい?と声をかければ、髪をひっぱられてうしろうしろ、といわれた気がしたので振り返ってみる。


「おおう…」


少年が眼を回して倒れていた。
おいおい、本末転倒じゃないのさ?
どーすんの、こいつ。
頭で考えてもラチがあかない。安全な場所まで運ぶっきゃない、と彼のポケットに端末がある感触。
おやおや? これはラッキーなんじゃないでしょうかね。なんて思えばきゅるりんと抜き取って電波の行き先をお尋ねする。

【こんにちわこんにちわー? 最後の通話相手さーん?】

『どちらさまかな? その携帯の持ち主ではないのは明らかみたいだけど』

【持ち主さんのびてんのよねー。おにーさん?かなー。回収するなりこっちから連れて行きたいんだけど、どーですかねー】

『君がそののばした人間ではない証拠はあるかい?』

【ないねえー。なら安全な場所まで連れて行っとくしさー、お迎えに行ってくんない?】

『危ないんじゃないかな、それ』

【じゃあ誰かよこしなさいよー。あたし巻き添え食って功労者よ功労者ー】

困るでしょー、レア眼球もちなんてどこの闇オクに出ると思ってんのよ。と続ければ。

『連れて行きたいといったか?! 君は』

【え、なんか問題あります?】

『いや、場所わかるのか!?』

【馬鹿にしないでよー。これでも電波繰りの異名なんてのがこちとらあんのよ? 足薙とかでもいいんだけどさー】

『…足薙だって?』

そっちの名前を知ってるってことは、若干関わるとまずい方面かなーと脳内で後悔する。
足薙は大概、裏稼業のかなり過激なやつらにしか使わないし。あいつらうっとうしいしさー。

【足薙知ってんなら、電波たどるのやめといたほうがいっかー。じゃあ場所指定するしまた連絡する方向で】

『いや、来てくれ』

【はぁぁああ? 足薙名義はろくなことしてねーから! あんたらみたいなのと絡みたくねーし!】

やーよ、こっちから願い下げだわ。と言えば、ならばこちらから迎えを行かせる、と返答が返ってきた。
はー、これだから、と続けようとして、はたと気がつく。

【ごめん、あたしあんたの声聞いたことあんだけど】

『すまないが、こちらはないな』

【そうだろうね! ごめんね!おにーさん! じゃあ場所いうねー】




そうしてあたしは安全な自分のテリトリー内にあるホテルを指定した。
わかった、という簡単な言葉を受けて通話は切れた。
電波の先をとりあえずたどるか?と思いはしたけど、興味本位が何度面倒くさい逃走劇を生んだか、と思い出せば、やめておこうという気になった。
嫌な予感がするんだよなぁ、と大きくため息をつき、少年を抱きあげ、猿くんはあたしのフードに入っててもらう。

「ちょっと暴れるかもだけど、我慢しておくれよー、猿くん」

そういってやれば肝の据わった声が返ってきた。
おー、飼い主に似て意外としっかりしてんのねー。
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